ロジャー・ダルトリー @ 東京国際フォーラム・ホールA

現在、日本にはあのモリッシーがいてこのロジャー・ダルトリーもいるという、何ともゴージャスなUKレジェンド揃い踏み週間となっているが、そんなロジャー・ダルトリーの来日ツアーの初日となったのが昨夜の東京国際フォーラムだ。今回のロジャーの来日には明確なコンセプトがあって、『ロジャー・ダルトリー PERFORMS THE WHO’s TOMMY AND MORE』と題された本ツアーは文字通り、彼がザ・フーの『トミー』をソロ・ライヴで丸々一枚再現するという趣旨の、特別な内容になっている。

そして、このタイトルの最後に付記された「AND MORE」とは、「『トミー』収録の楽曲以外にも皆が聴きたいだろうあの曲やこの曲ももちろん演るよ」、というロジャーからの嬉しいメッセージでもある。つまり今回の来日公演は、『トミー』の完全再現ライヴという今しか観られないプレミアなパフォーマンスと、ザ・フーの大名曲を片っ端からロジャーが歌いあげるという大盤振る舞いのサービス・セットの両方を一気にリバーシブルで楽しめる垂涎の一夜ということになる。

定刻を少しすぎたところで場内暗転、あの有名な『トミー』の“序曲”が鳴り響き、壮大なる物語の幕が開く。この時点ですでにロジャーはステージにいるが、彼にスポットライトは当たらない。ギター×2(そのうちの一人はピート・タウンゼントの実弟サイモン・タウンゼント)、ベース、ドラム、キーボードの各メンバーが“序曲”から“イッツ・ア・ボーイ”へと着実に壮大な『トミー』の世界観を構築し始めている傍らで、ロジャーは悠々とお茶(のようなものが入ったマグカップ)を飲んでいる。そして“イッツ・ア・ボーイ”で、ピート・タウンゼントのボーカル・パートはどうやらサイモン・タウンゼントが受け持つらしいことを確認したところで、ロジャーがそこにハモってくる。

そして続く“1921”で満を持してロジャー・ダルトリーのヴォーカルが轟き、場内は大歓声で包まれる。私がロジャーを観たのは2004年のロック・オデッセイ以来だが、全く老けていない若々しい彼の容貌にまずは驚いてしまった。160センチ台と小柄だけれどぴりっと引き締まった身体、そして白いシャツのボタンは大胆にヘソ上ギリの深さまで全開といういつものダルトリー・スタイル。そんな彼の若々しさが爆発したのが“すてきな旅行”だ。この夜だけで恐らく100回はゆうにブン回しただろうマイク、けん玉空中殺法みたいなロジャーの代名詞のマイク・プレイが早くも登場し、フォーラムが更なる大音量の歓声で揺れる。

各曲はほぼシームレスで繋がれていくのに加えて、曲の合間にロジャーはほとんど喋らない、というか、敢えて喋らないと決めていたようにも見えた。彼は「サンキュー」と言う代わりに深々と頭を垂れ、大歓声に対しては両手を広げて感極まった表情で応える。それだけの覚悟を持って『トミー』の再現に取り組んでいるということだろうし、この矢つぎ早で流れるような展開が猛烈に気持ちいい。特に中盤のサイケデリック~アシッドなナンバーの陶酔感は素晴らしく、この『トミー』完全再現というアイディアが大正解だったことを確認した。

「『トミー』の再現ライヴ」と初めて聞いた時、それは目茶苦茶おもしろそうだとは思ったけど、じゃあそれがどういうクオリティのものになるのかは実際に観てみるまで予想できない部分も多かった。その膨大な情報量と思索の跡、そしてメタファーの数々をしてこのアルバムは「ロック・オペラ」と称され、その特性から映画化やミュージカル化といった視覚へのアプローチがさかんに行われたアルバムだった。しかし今回の主役はあくまでも音、しかもバンドのブレーン的な位置におり『トミー』のコンセプトの構築者でもあるピート・タウンゼント不在の状態でそれをどう再現するかとなれば、ロジャーに課せられたトライアルは非常に難易度が高かったと言わざるを得ない。

しかし結果としてそれはかなりフレキシブルにアレンジが加えられ、ロジャー・ダルトリー流の『トミー』として圧倒的に正しいものになっていた。ピートのパートをロジャーが歌ってみたり、より荒々しいバンド・サウンドが試され、ロジャーのルーツであるブルース調へとアレンジを変えていたり、『トミー』の名の元に委縮することなく、ロジャー・ダルトリーのソロ・ライヴで演るに相応しいものにかたちを変えていた。特に後半の“ピンボールの魔術師”から“俺達はしないよ”へと至る多展開のスペクタクルは圧巻で、この流れを肉体派で現場主義のロジャーのヴァージョンで観れたこと、究極のブレーン・ミュージックでもある『トミー』を極めて分かりやすいロックのライヴ・エンターテイメントとして観ることができた意味は大きいと思った。

『トミー』の終幕と共にバンドがはけてアンコールのかたちを取るかと思いきや、そのままの流れで「AND MORE」セクションに突入する。「ドウモ!サンキュー、ドウモ!」とのっけから軽快にロジャーが挨拶する。『トミー』の再現中に沈黙を貫いた反動か、この「AND MORE」ではロジャーは本当にフレンドリーでよく喋ってくれる。そして「ここからはオールド・ヒット・ソングもやるからね」との宣言どおり、以降はオールド・ファン垂涎の大名曲が連打されていく。フォーラムが大合唱になった“ババ・オライリィ”(一番盛り上がるピートのヴォーカル・パートを嬉しそうにロジャーが歌っていました)、『トミー』再現のテンションと比較すると牧歌的にすら聞こえた“キッズ・アー・オーライト”、そして激渋ブルースなアレンジでちょっと皮肉を効かせた“マイ・ジェネレーション”等々、隅から隅まで聴きどころ満載だ。

そして最後、バンドが退場し、ステージ上にはウクレレ(!)を手にしたロジャーとキーボード・プレイヤーだけが残る。そして「この歌はあなた達日本人についての歌です」と紹介して始まったラスト・ナンバーは“ブルー・レッド・アンド・グレイ”。トータルで2時間を超え、全35曲を演り終わってもなおロジャー・ダルトリー(御歳68歳…!)その人は精力気力共に未だ満タンに見えるというとんでもなさだったが、観終えた後のこちらの充足感もまたとんでもないものがあった。(粉川しの)

1. OVERTURE
2. IT’S A BOY
3. 1921
4. AMAZING JOURNEY
5. SPARKS
6. EYESIGHT TO THE BLIND
7. CHRISTMAS
8. COUSIN KEVIN
9. THE ACID QUEEN
10. DO YOU THINK IT’S ALRIGHT
11. FIDDLE ABOUT
12. PINBALL WIZARD
13. THERE’S DOCTOR
14. GO TO THE MIRROR
15. TOMMY CAN YOU HEAR ME
16. SMASH THE MIRROR
17. SENSATION
18. REFRAIN-IT’S A BOY
19. I’M FREE
20. MIRACLE CURE
21. SALLY SIMPSON
22. WELLCOME
23. TOMMY’S HOLIDAY CAMP
24. WE’RE NOT GONNA TAKE IT

25. I CAN SEE FOR MILES
26. THE KIDS ARE ALIGHT
27. BEHIND BLUE EYES
28. DAYS OF LIGHT
29. THE WAY IT IS
30. WHO ARE YOU
31. MY GENERATION
32. YOUNG MAN BLUES
33. BABA O’RIELY
34. WITHOUT YOUR LOVE
35. RED BLUE AND GREY
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