ジェイムス・ブレイク @ 新木場スタジオコースト

ジェイムス・ブレイク @ 新木場スタジオコースト - All pics by TEPPEI KISHIDAAll pics by TEPPEI KISHIDA
ジェイムス・ブレイク @ 新木場スタジオコースト
2011年の初来日ではリキッドルームを、2012年のフジ・ロックではホワイト・ステージを埋め尽くしてきたジェイムス・ブレイクが、この2013年、再び日本にやってきた。東京公演は新木場スタジオコースト2日間。初日の4日は発売と同時に即日完売で、すぐさま追加公演が決まった。追加公演の昨夜も若干の当日券を出したものの、コーストに足を踏み入れてみれば2階席の上の上までぎっちぎちのフルハウス。来日の回を重ねるたびにブレイクが日本での認知と人気を飛躍的に上げてきたことを告げていた。

今回の来日は待望のセカンド・アルバム『オーヴァーグロウン』を引っ提げての新作ツアーである。『オーヴァーグロウン』はデビュー・アルバム『ジェイムス・ブレイク』と比べて歌物志向を強めたオーガニックなシンガー・ソングライター・アルバムとして評価されている傾向にある。ただし、ジェイムス・ブレイクという人はそもそもポスト・ダブ・ステップ云々といったダンス/エレクトロ・シーンのいちジャンルの範疇では語りきれない屹立したソングライターであり、何よりも類い稀なる歌手であることは初来日の段階からわかっていたことだ。彼がダブステップという村を代表していたのは、それこそ初期のEP『CMYK』の時期だけのことだろう。『オーヴァーグロウン』とは歌物に軸足を移したアルバムではなく、むしろブレイク本来の正しい肖像を結んだアルバムだったのだと思う。

そして、この日のライヴは、そんなジェイムス・ブレイクの唯一無比の凄さを改めて証明した、とんでもないライヴだった。2枚の傑作アルバムと過去2回の来日を経て、私達ファンがブレイクの正しい像をそれこそ正しいアングルで捉えることができるようになった、という状況が出来上がったことも大きいかもしれない。“I Never Learnt to Share”でその場で録ったヴォーカルを幾重にもループさせ、ブレイクの声が一重、また一重とレイヤーされていくたびに、歓声も一段、また一段と大きくなっていくという、満場のオーディエンスのヴイヴィッドな反応にものっけから心が躍る。

ステージ上は、上手のキーボードとサンプラーの前にブレイクが腰かけ、下手にはギター兼キーボード、センター後方にはドラマーというシンプルな布陣。新曲の“To the Last”はブレイクのほぼ独唱で幕を開け、続く“Lindisfarne”に至ってはほぼフォークソングとして歌われていたと言っていい。そしてそこから一転“I Am Sold”、“CMYK”とリズム・オリエンテッドなナンバーが続き、まずは歌とリズムの二面性でブレイクを象っていく。

ダブステップとは書いて字の通り、その基本はダブだ。ダブってことはつまりルーツはレゲエであり、レゲエということはつまりリズムを「裏」で取り、「後ろ」に置く音楽だ。しかしそこにブレイクビーツが入り、ドラムンベースが入り、ダブステップとなっていく過程において、「重心低めの裏ノリ」というダブの基本形に前につんのめっていくような立てノリの感覚が同居する、それがダブステップというグルーヴのユニークさだ。“CMYK”で昂揚して揺れるフロアを2階席から観ていると、ダブステップ以外のダンス・ミュージックのピークタイム時に必ず立ち現れる画一的なノリが一切なく、ゆらゆらと不定形に波打っている様がとても面白かった。そう、ダブステップは間違いなく21世紀のグルーヴの革命だったし、ジェイムス・ブレイクとは革新的なリズムのクリエイターであることも間違いないだろう。

しかし、同時に彼の真の凄さとはやはりダブステップ云々やグルーヴの革命云々とは別のところにあるのだと、思い知らされたライヴでもあった。“I Never Learnt to Share”等にも顕著だけれど、ブレイクのもうひとつのシグネチャー・サウンドは。大音量で鳴るシンセの和音だ。リズムの革新性や精緻とは無関係に、圧倒的な分厚さで問答無用にビヤヤヤヤヤヤ!!!!と鳴る、あの単純で、悲鳴のようで、寂寥の隙間を塗り込めるようですらある、強い音。そしてそんなシンセの和音よりさらに強いのが、声だ。彼の歌声だ。ブレイクの声の強さとはマチズモではない。本来内向的で繊細かつ傷つきやすいものが、内向的で繊細であることを一切隠さず、傷だらけの姿で深く、濃く立ち現れるというアンビバレンツな強さだ。極めてアップトゥデートなサウンドを装備しているシーンの先駆者であるブレイクだが、彼のこの強さ、美しさはサウンドの装備内容とは関係ない、もっとずっと本来的で普遍のものなのだ。

真っ赤なライトが妖しく揺らめく中で始まった“Limit to Your Love”は、まさにそんなブレイクのアンビバレントな強さを象徴するようなナンバーだった。そしてフィナーレへ、新作の歌回帰を象徴するナンバーである“Overgrown”、“Voyeur”と、この日のショウはまさにブレイクの声の元へと速やかに収束していった。アンコール・ラストはドラマーとギタリストも退場し、ブレイクがたった一人で弾き歌うジョニ・ミッチェルのカヴァー、“A Case of You”。この曲を最後に独りで歌うこと。それがブレイクの出した答え、この夜のライヴの素晴らしさの答えだったように思う。(粉川しの)

Air & Lack Thereof
I Never Learnt To Share
To The Last
Lindisfarne
I am Sold
CMYK
Our Love Comes Back
Digital Lion
Unluck
Limit To Your Love
Klavierwerke
Overgrown
Voyeur
Retrograde
(encore)
The Wilhelm Scream
A Case Of You
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on