スウェードの10年ぶりの単独来日公演である。2010年の再結成以来、2011年にはサマーソニック、2012年にはNANO-MUGEN FESTIVALで来日しているので、実は3年連続でここ日本でスウェードのライヴを観ることができているわけだが、とは言え単独来日ツアーはやはり特別だ。しかも今年は1993年の初来日からちょうど20年の節目にあたる年でもある。スウェードの初来日と彼らのデビュー・アルバム『スウェード』から20年、活動休止から10年、今こうして新作『ブラッドスポーツ』を携えて彼らが日本に来てくれたミラクルを噛みしめるように、会場に向かった。
SHIBUYA-AXにはそんな筆者同様に彼らとの思い出を胸に抱きしめてやってきたのだろうリアルタイムのファンに加えて、再結成以降のベスト盤やリイシューによってスウェードを知ったのだろう若いファンも数多く見受けられた。
定刻の20時ジャスト、暗転した会場に歓声が轟く中、バンドが登場する。ひとり最後にブレットが登場したところでさらなる大歓声が沸き、1曲目の“Faultlines”が始まった。今回のスウェードの来日公演は、今のところすべて新作『ブラッドスポーツ』からの新曲で幕を開けている。ニールのピアノとブレットのヴォーカルでスタートする“Faultlines”は、“The Next Life”で幕を開けていた最初期のスウェードのライヴを彷彿させる、彼ららしいシアトリカルかつしめやかなオープニングだ。この後も4曲目の“It Starts and Ends with You”まで『ブラッドスポーツ』のナンバーが連打されるという痛快な展開で、前回来日のNANO-MUGEN FESTIVALがフェス仕様のベスト・ヒット・メドレーだったことを思うと、今回こそが再生したスウェードの第一歩となるステージなのだと感慨深かった。
しかも、この新曲群が本当に素晴らしかったのだ。『カミング・アップ』期のスウェードを彷彿させる力強くポジティヴなアンセムである“For the Strangers”と“Barriers”、“Barriers”の段階ですでにブレットは汗だくで、ジャストサイズで着ている白シャツも汗でぐっしょりで背中に貼り付いてしまっている。そしてよりグラマラスで猥雑な魅力を全開にしてリチャードのギターがうねる“It Starts and Ends with You”。オーディエンスもトップスタートの盛り上がりで、今夜のライヴは再結成バンドの懐メロ・ショウなんかではないということを、バンドとオーディエンスの双方が証明していく。再結成から3年の歳月をかけてじっくり、そして全力で作った『ブラッドスポーツ』のクオリティをまずははっきりと見せつける、そんなスウェードの姿勢を最初に確認できるのが最高だった。
そして新曲連打のオープニングを経て、5曲目で“Filmstar”が始まる。ここから8曲目の“Together”まではセットリストを見てもらえばわかると思うが、とんでもないものだった。ブレットがマイクを鞭のようにぶん回し始める“Filmstar”の挑発でさらにヒートアップした会場に早くも“Trash”がドロップされる。スウェードのライヴの恒例儀式である「We're trash, you and me」の大合唱、「you」でファンを、「me」で自分の胸を指さすブレットのいつものジェスチャーも決まり、いよいよ昂り団結していく会場。「俺たちはゴミだ」という歌詞の元で団結するというのもある種異様な光景ではあるが、それがスウェードと彼らのファンの契りであり、変わらぬ美学なのだ。グラマラス・スウェードの代表的なナンバー“Animal Nitrate”ではひしゃげたギターのフィードバックに追い立てられるようにフロアのファンが縦横に揺れる。ちなみにかつてのブレットの十八番だったくねくねと尻を振るダンスは今回は控えめで、代わりに何度も何度もブレッドはハイジャンプを決め、四股を踏むようにリズムを取りながら「シンギン!!」「クラップユアハンズ!!」と叫ぶ。歳を重ねる毎にますますフィジカルでアスリートじみた動きになっているのが凄い。
“Sometimes I Feel I'll Float Away”はブレットのファルセット・ヴォーカルを存分に生かすミニマムなスロー・バラッド。途中で数秒の静寂を挟みステージにブレットがうずくまったりと芝居がかった展開だ。ここからの数曲はバラッドが続き、そのバラッド・セクションのクライマックスとして鳴ったのが“The Wild Ones”だ。ニールのアコギも冴え冴えと響く珠玉の出来で、「俺たちはゴミだ」と歌いながらもこういう究極の美も孕んでいるのがスウェードなのだ。そんな“The Wild Ones”の余韻漂うアウトロに被せるようにサイモンのドラム・イントロ、あのスウェードの楽曲中でも一、二を争うスキャンダラスで禁忌な名曲“The Drowners”のイントロが畳みかけられる。この“The Wild Ones”から“The Drowners”への急転直下にはゾクゾクさせられた。
今回の来日ツアーは毎晩セットリストにマイナー・チェンジが加えられており、中には彼らが意図的に毎晩入れ替えてプレイしていると思しきレア曲が存在する。昨夜だとたとえば“Pantomime Horse”がそうだろう。「1993年、今から20年前に僕らが初めて日本にきた時にもプレイした曲だよ」とブレット。ちなみに大阪では“My Insatiable One”、名古屋では“My Dark Star”をそれぞれレア曲として演っているので、今日の公演でもまた別のサプライズ・ナンバーが用意されてるんじゃないかと思う。続くバラッド“What Are You Not Telling Me?”はブレットとニールにピンスポが当たって始まり、“Pantomime Horse”から“What Are You Not Telling Me?”への流れはもうひとつのスウェードの美学、「死」を彷彿させる静寂を湛えた展開となった。猥雑とタブー、美と静寂、ここまでの流れでスウェードのあらゆる側面を再確認できる格好だ。
“Everything Will Flow”は鉄板のシンガロング・ナンバーで、ブレットはスタンドマイクを客席に差し入れ、オーディエンスはそのマイクに向かって全力で声を張り上げていく。シンガロングがさらに大きくなった“So Young”では、ブレットがミネラルウォーターのペット・ボトルをつま先クリーンヒットでフロアに蹴り込むという離れ業も披露。もうこの辺りから会場の興奮は針が振り切れた状態になっていた。「ラヴリー! ファンタスティック・オーディエンス、トキオ!」と叫んだブレットの興奮も同様にだ。“Metal Mickey”、そして“Trash”と並ぶもうひとつのスウェードとファンのテーマ・ソングである“Beautiful Ones”で幕を下ろした本編、そしてアンコールの“Hit Me”とこれ以上のエンディングは考えられない、最高の幕切れだった。再結成バンドが過去と今を等しく輝かせ、未来につなげる。そんな奇跡を目の当たりにした一夜だった。(粉川しの)
1. Faultlines
2. For the Strangers
3. Barriers
4. It Starts and Ends With You
5. Filmstar
6. Trash
7. Animal Nitrate
8. Together
9. Sometimes I Feel I’ll Float Away
10. Sabotage
11. The Wild Ones
12. The Drowners
13. Can't Get Enough
14. Pantomime Horse
15. What Are You Not Telling Me?
16. Everything Will Flow
17. So Young
18. Metal Mickey
19. Beautiful Ones
Encore:
20. Hit Me