プライマル・スクリーム @ 新木場STUDIO COAST

プライマル・スクリームはその時々の最新作のモードによってライヴ自体のモードも大胆に変化させていくバンドだ。大前提にボビー・ギレスビーのロックンロール求道精神を構えつつも、常に新しいことに挑戦し続けていくイノベイター、プライマルの現在形をヴィヴィッドに確認できる場はライヴになる。そういう意味でも、今回の単独来日は興味深いシチュエーションだった。なにしろ5年ぶりのニュー・アルバム『モア・ライト』を引っ提げての来日だ。アルバムのインターバルが5年空いたのはプライマル史上初めてのことで、その間には『スクリーマデリカ』(1991)の20周年記念の全曲再現ライヴ・シリーズもあった。また、マニがストーン・ローゼズの再結成に合流するために2011年の大晦日のライヴを最後に脱退。バンドは女性ベーシストのシモーヌ・バトラーを新たに迎えた。そう、プライマルの現在形に作用する多くのトピックを携えたライヴと言えるのが、今回の新木場STUDIO COAST公演だった。

結論から言うと、昨夜のプライマル・スクリームはまさに新作『モア・ライト』仕様のライヴとなった。『モア・ライト』はプライマルにとって「サイケデリック回帰作」とでも呼ぶべき一枚、『エクスターミネーター』や『ヴァニシング・ポイント』といったエレクトリックの革新的アルバムを経過した2010年代の今、改めて『スクリーマデリカ』的なアシッド・サイケのアプローチを試してみたら、恐ろしく格好良いモダン・ロックンロールになってしまった……というアルバムだったわけだが、昨夜のライヴもまた、そんなプライマル流の温故知新を感じさせる内容になっていたのだ。

1曲目は『モア・ライト』のオープニング・ナンバーでもある“2013”。サックスの導入でじわじわと過熱されていくミッドテンポの渋いブルース・サイケで、そこから一転ヒプノティックかつアッパーにぶちあがっていく“Hit Void”へと、オープニングの段階で既に凄まじいサイケの高低差を見せつける。立て続けて始まった“Jailbird”ではリード・ギターをリトル・バーリーのバーリー・カドガンが担当し、あの印象的なR&Bのリフを思いっきりねちっこく弾きまくる。これも『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』や『ライオット・シティ・ブルース』期のオールド・スクールなサザン・ロック調のそれとは異なり、あくまでもエッジの際だつモダン・ロックになっているのがめちゃくちゃ格好良い。

ボビーの機嫌の良さにも驚かされた。終始笑顔でオーディエンスを煽り、ステージを右へ左へと何度も走り回りながら最前列のファンとハイタッチを繰り返し、四方八方に向けて投げキスまで飛ばしまくる。“Burning Wheel”ではマラカス、“Shoot Speed/Kill Light”ではタンバリンを打ち鳴らし、柳腰をくねらせながら踊るボビーの装いは黒の細身のスーツにシルバーラメのブラウスで、こんな格好が似合ってしまうのもボビーくらいだろう。

“Shoot Speed/Kill Light”や“Accelerator”といった『エクスターミネーター』のナンバーでは、マニの不在が大きく作用してくる。これはストーン・ローゼズにも言えることだが、マニのベースが生むグルーヴの独特の間はギター・ロック・バンドとエレクトリック、ダンス・ミュージックを繋ぐ媒介として唯一無二のもので、そんなマニがいなくなるとどうしてもサウンドはR&Bの王道のグルーヴへと引き寄せられていく。実際“Shoot Speed/Kill Light”も“Accelerator”も、むしろファンク寄りのグルーヴとラウド・ロックばりの音圧が強調されたアレンジになっていて新感覚だった。

個人的にこの日最も痺れた展開がここからの2曲、“Culturecide”と“River of Pain”だ。『モア・ライト』の「サイケデリック」と並ぶもうひとつの柱は「シネマティック」ということだと思うが、フルートとサックスが幻惑的なフレーズを奏でた“Culturecide”といい、ドクター・ジョンばりの呪詛ブルースが不穏な奥行きを描き出す“River Of Pain”といい、まるでデヴィッド・リンチの映画のワン・シーンのように危ういテンションの緊縛状態を作り上げていく。その緊縛状態をゆっくり解きほぐしていった甘くソフトなボビーの歌声が響く“Damaged”もチルアウトとして最高だ。“Autobahn 66”がインターミッションのように挟まれた後、そこからの後半は一気に狂乱のパーティ・セクションと化していく。本編ラストが“Country Girl”と“Rocks”というド定番ナンバーで〆られ、ロックンロールで始まりロックンロールで終わる、そんなストレートで潔いプライマルの現在形を象徴するエンディングだった。

アンコールは『スクリーマデリカ』から3曲、『プライマル・スクリーム』から1曲というオールド・ファン垂涎の並びとなったが、“Higher Than the Sun”、“Loaded”、“Movin' On Up”という『スクリーマデリカ』の必殺の3曲をぎゅっとアンコールに凝縮し、22年の時を経ても一切風化しない、今なお多くの気づきと覚醒の瞬間に満ちたその楽曲に身を委ねるのは至福のフィナーレだった。(粉川しの)

1. 2013
2. Hit Void
3. Jailbird
4. Burning Wheel
5. Shoot Speed/Kill Light
6. Accelerator
7. Culturecide
8. River Of Pain
9. Damaged
10. Goodbye Johnny
11. Autobahn 66
12. It's Alright, It's OK
13. Swastika Eyes
14. Country Girl
15. Rocks
(encore)
16. Higher Than the Sun
17. I'm Losing More Than I'll Ever Have
18. Loaded
19. Movin' On Up
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