「もう俺ら、何も迷ってないね。何も迷ってない音楽を、あんたらに差し上げたいですよ!」と柴田隆浩(Vo・G)は満場のフロアに語りかけていた。「バンドがこんなになってきてですね、人生がハチャメチャなことになってきてですね。どうせやるからにはさ、あんたらみたいな熱いやつらが集まってくれるんだったらさ、このつまんねえ人間の、ちっぽけな人生とかさ、全部捧げてもいいんじゃねえかと思ってるよ!」……2ndアルバム『空を見上げても空しかねえよ』を引っ提げて回った、忘れらんねえよの計9公演の全国ツアー『忘れらんねえよ ワンマンツアー「バンドワゴン」』のツアー・ファイナル。単に「全身全霊を傾けた熱血ライブ」だから素晴らしかった、というだけではなく、その熱量が明確な意志と覚悟をもって真っ直ぐにオーディエンスに向かって轟々と放射され、それがまた観る者すべての圧巻の熱気と歓喜を巻き起こしていく——という無限ループを生み出していく、感動的なステージだった。
確かに、当初からのバンドのトレードマークともなっていた、人生負けまくり・非リア充っぷり満載の歌やMCが、相変わらず随所からあふれ出してくるライブではあった。オープニングの場面からして、柴田が大ファンであることを公言して憚らないチャットモンチー・橋本絵莉子への想いを開演SE“シャングリラ”に託しつつ「今年はめでたいことがいっぱいあった。まず、チャットモンチーのえっちゃんが、結婚した!……め、めでたくねえよ!」という逆ギレ絶叫で演奏に入る前から会場丸ごと爆苦笑で包んでみせていたし、中盤には柴田の「高校時代に1ヵ月だけ付き合ってフられた元カノ『おがっち』をずーっと想い続けていたら携帯番号変えられて、慶応ボーイと結婚していた話」というドン引き必至のエピソードから“慶応ボーイになりたい”へ流れ込んでもいた。とはいえ、どうにもカッコつけようのない日常を曝け出しつつ、他ならぬその悔しさや報われなさを開けっ広げなパンク・ロックの爆発力へと変えてみせるのが、忘れらんねえよというバンドならではのストロング・ポイントでもあった。が、この日の3人は明らかに「その先」へ進んでいた。
いきなり“僕らチェンジザワールド”“戦う時はひとりだ”“僕らパンクロックで生きていくんだ”とアンセムを畳み掛けて、LIQUIDROOMソールドアウト超満員のオーディエンスのハートに点火してフロアを激震させてみせた序盤。ドカドカと疾走する酒田耕慈(Dr)&梅津拓也(B)のビートとともに《この世界の全てがデタラメだったとしても そんなん僕の中にほんとが あればそれが真実》と渾身の力で宣誓する“アワナビーゼー”……最新アルバム『空を見上げても空しかねえよ』の全曲と1st『忘れらんねえよ』の大半の曲を盛り込んだこの日のステージで鳴っていたのは、「どうやったって冴えない日常のフラストレーション逆噴射」としての音ではなく、「冴えない日常をひとつひとつ自分の手で変えて前へ進んでいくための力」としてのパンク・ロックだったし、その音の1つ1つが幾度も熱烈なシンガロングやクラウドサーフを呼び起こしていった。そして、そんなモードの変化をもたらしたのは紛れもなくバンドの、ひいては柴田の揺るぎない覚悟そのものだ。
「俺、最近毎日ほんと寝れなくて。リリースしてからさ、ずーっと気が張っててさ。これ以上できない!っていうものを作って世に出したのが初めてで。1stの時はさ、一生懸命やってたんだけど、どっかで『こうすればよかった』とかいうのがあったんだよ。でも、今回はそういうのが一切なかったんだよ。だから、出す前の日とかほんっと怖くて。そっからずーっと怖いんだよ」と、柴田は切々と語っていた。「ライブをやってる時は、そこから唯一解放されるんだよ。平日の夜だからさ、自分の仕事とかさ、学校の勉強とかあるでしょ? それをシャッと頑張って終わらしてさ、安くないチケット代払ってさ、俺らの背中を押してくれてるわけじゃん? なんかねえ……すっごい救われんの。綺麗事じゃなくて。薄々気づいてたんだけど……救われてます。ありがとうございます!」——虚飾なき言葉で話す柴田に、惜しみない拍手がフロア一面から沸き上がっていた。
「理不尽に折れずに立ち上がって、ここに立ってるあんたらは、絶っ対に間違ってない!っていうさ、そういう歌を作りてえなあと思ってて……ようやくできました!」という言葉とともに響かせたのは“夜間飛行”。熱いクラップを貫いて空気を震わせる《野を越え山を越えて 君のその悲しみも越えて 加速すんだ あとにはなんにも残んないよ 目の前には星空》という柴田の歌が、やがでサビの《飛んでいくんだ》のフレーズとともに炸裂! さらに“この高鳴りをなんと呼ぶ”でフロアを揺さぶり、“この街には君がいない”“北極星”から“CからはじまるABC”へ雪崩れ込んで割れんばかりのシンガロングを生み出していく。「俺、ラブソング書けねえなって。頑張って書いたら“あなたの背後に立っていた”みたいな曲ができちゃったんだよ(笑)。でも、バンドが大好きで、バンドマンが大好きで、バンドマンに関わるスタッフとかが大好きなんだよ。でさ、自分のやんないといけないことを片付けて、応援しに来てくれるあんたらのことも大好きなんだよ。俺は、そういうやつらへのラブソングなら書けるんだよ!」というメッセージとともに放ったのは、今回のツアーの象徴的ナンバー“バンドワゴン”。《僕らの音楽は汚されても死なない 雨や風や雪にさらされても死なない》……そんな熱唱と晴れやかなバンド・サウンドが、どこまでも熱く胸に焼きついた。
アンコールではゲストとしておとぎ話・有馬和樹&牛尾健太が登場。「忘れらんねえよの曲を初めて聴いた時、『もう柴ちゃんグチばっかり言って……たまんねえやつだなこいつ』って思ってたんだけど(笑)。その曲がみんなの歌になってて、もう俺今日感動して涙止まんなかったね!」の有馬の言葉が、熱気あふれるフロアを拍手で包み、2人を迎えて歌い上げた“戦って勝ってこい”に満場のハンドウェーブが巻き起こる。有馬&牛尾を送り出した後、万感の想いをこめてスロウ・ナンバー“パンクロッカーなんだよ”を披露。「本当に最後の曲なんですよ。みんなでキラキラさせませんか!」という柴田のコールとともに突入したラスト・ナンバーは“忘れらんねえよ”。《忘れらんねえよ ベイベー 忘れらんねえよ ヘイヘイ からっぽの頭から 生まれてくる音楽》——会場一丸のでっかいシンガロングが、諦念と空虚から生まれたはずの言葉を「今ここにいる僕らの凱歌」へと変えていた。最高の瞬間だった。
すべての音が止んだ後、「『列伝ツアー(スペースシャワー列伝JAPAN TOUR)』に出たかったから」ということで『列伝ツアー』にちなんだ来春の2マン・ツアー『ツレ伝ツアー ~序章~』の開催を発表した3人(ツアーの詳細はこちら→http://ro69.jp/news/detail/93928?rtw)。「なんかさ、続いていきたいなと思ってさ。今回のツアーを回って、いろいろ考えてさ……やりたいことがめちゃくちゃいっぱいできたんだよね」と柴田は最後に観客に語りかけていた。「どうしてもさ、悔しい想いがたくさんあるんだよ。ナメられる時だってあるしさ。こんなに人生突っ込んでやってて、こんな最高なお客さんが集まってくれるのにさ、ナメられるのは嫌なんだよな。もっともっとでかいところにさ、もっともっとすげえ景色をさ、みんなと一緒に作りたいなと思ったの。このツアーは、どんどん大きくしていくので。楽しみにしといてください! よろしく!」……剥き出しの魂で鳴らした「自分のための音楽」が、ひとり、またひとりと共鳴し合って「みんなの音楽」になり、その「みんな」の想いを引き受け背負うことで、音楽がさらに逞しさと熱量を増していくロックの基本原則そのもののサイクルが、この上なく強烈なエネルギーとなって、この日のLIQUIDROOMには確かに渦巻いていた。(高橋智樹)
セットリスト
01.僕らチェンジザワールド
02.戦う時はひとりだ
03.僕らパンクロックで生きていくんだ
04.だんだんどんどん
05.アワナビーゼー
06.あんたなんだ
07.ドストエフスキーを読んだと嘘をついた
08.俺を守りたい
09.中年かまってちゃん
10.慶応ボーイになりたい
11.あなたの背後に立っていた
12.青年かまってちゃん
13.美しいよ
14.そんなに大きな声で泣いてなんだか僕も悲しいじゃないか
15.夜間飛行
16.この高鳴りをなんと呼ぶ
17.この街には君がいない
18.北極星
19.CからはじまるABC
20.バンドワゴン
(Encore)
21.戦って勝ってこい [ゲスト:有馬和樹&牛尾健太(おとぎ話)]
22.パンクロッカーなんだよ
23.忘れらんねえよ
忘れらんねえよ @ LIQUIDROOM ebisu
2013.12.13