快速東京 @ 渋谷CLUB QUATTRO

「東京名物、快速東京です!」……MC中に一ノ瀬雄太(G)が言ったキャッチフレーズを福田哲丸(Vo)がひどく気に入り、今日のライヴ中に何度も繰り返していた。まるで、そのタイトル通り、新年の「ごあいさつ」のように……。1月15日に発売されるサード・アルバム『ウィーアーザワールド』のリリース記念新年ワンマンギグ「ごあいさつ」が、渋谷CLUB QUATTROで行われた。本編、アンコール、ダブルアンコール、全38曲、ライヴアクト時間は1時間半。恐らく彼らの音楽を知らない人がこの数字を見たら「あり得ない」と思うかもしれないが、それを可能にするのがこの快速東京だ。

午後6時半。開場時間にフロアに入ると、クアトロ内はDJブースになっていた。あれ、会場を間違えた?なんて思ったが、回しているのは快速東京となじみの深いヒップホップバンド、カタコトのYANOMAN とDのふたりだった。観客が音楽に合わせて自然と身体を揺らす中、ふたりに開演時間が少し押すとの連絡が入ったようで、「もう開演時間なのに俺らまだやってるけど、俺らのせいじゃないからね! 快速東京がまだ準備してるからだからね!」と弁解し、会場を沸かす。そんな様子を見にステージに現れたのは、快速東京の謎のマスコット的珍獣プロデューサー、フェリさん。ここからはフェルト製の足長キャラクターの彼が会場を爆笑トークで盛り上げる。もはやフェリさんのワンマントークショー状態で、トーク内で超レアTシャツ(かいじゅうTシャツにD(from カタコト)が直筆でイラストしたもの1枚、4年前くらいに作られたフェリさんTシャツ2枚の計3枚)のプレゼントもあった。この時点で、スタッフからフェリさんに「巻いてくれ」との耳打ちが入る(笑) フェリさんが「……(そんなプレッシャーにも)負けませんよ?」と意気込むと、「今日はこれがやりたかったんだよ」とサード・アルバム『ごあいさつ』に収録されている“アトム”の歌詞の音読をしだす。そして「じゃあ、呼ぶよ! 準備はできてるー?いくよー!」とのフェリさんのかけ声で、会場が暗転。いよいよライヴが始まる!

SEに合わせて鳴らされた会場のハンドクラップに乗っかって、スモークで覆われたステージに4人の影が現れた。そして柳田将司(Dr)、藤原一真(B)、一ノ瀬がまるで年末年始に溜まっていたエネルギーを一気に放出するかのように激しく楽器を鳴らし、その轟音をバックに哲丸が「ハロー、渋谷クアトロぉ。新しい年を始めようぜぇ。アーユーレディ?」と呼び掛けると、いきなり“ロックンロール”へ突入! イントロの柳田の強いキック音が鳴りだした瞬間にフロア全体が反応したのが見て取れた。曲中の《説明するのもめんどくさいし》との歌詞にあるように、説明を受けるよりも身体で感じろ!と言われたような最高のスタートだ。そこから“変だぜ”“八”“虫”“かいじゅう”と怒涛すぎる勢いでぶっ放していく。

一発目のMCは「フェリが長ぇよー! 何分やってんだよー!」という一ノ瀬の声から始まり、会場が笑う。一ノ瀬の嘆きに、哲丸が「まぁ、あいつのワンマンだったからな、今日。俺らが頼んで出してもらったからな」とフォローを入れる。そして今日のライヴがソールドアウトになったことが告げられ、一ノ瀬からは「次はもっと大きいところでやらなきゃなあ」なんていう今年の抱負とも捉えられる発言も飛び出した。「今日は長いぜぇ?信じられないくらい長いぜ? 俺たちが倒れるか、君たちが倒れるかのどっちかやな」という哲丸の挑発に会場は大歓声で応える。ステージVSフロアの1本勝負が仕掛けられ、開始の合図代わりに掻き鳴らされたのは“エレキ”“コンピューター”。そして「新年早々、どいつもこいつも“ヒマ”ですねぇ」との哲丸の皮肉と柳田のカウベルの音に始まったのは“ヒマ”、さらに“ワガママ”“ラヴソング”と彼らならではの1~2分の爆裂ショートチューンの連続射撃! もちろん、会場は倒れるどころか、アドレナリン全開の熱気に溢れている。

「10曲終わったぜ。(この時点でスタートから約12分)早ぇな、バカかな?」と哲丸が自虐的に語ってみせる。そして、今日の会場限定で宇宙最速発売となったアルバム『ウィーアーザワールド』の話題になり、「ここからは、その新しいアルバムからやります」との一ノ瀬の声に始まったのは“ライトニングスーパーフラッシュ”“ドーナッツ”“アトム”“カバ”“あくまくん”の5曲。さらに「次はメタルマンコーナーです」と、セカンド・アルバム収録曲の“メタルマン”と、その続編とした新曲“メタルマン2”(初期メタルマンで倒された敵が再度復活するというストーリー)のゴリゴリのメタルを連続披露。遊び心溢れる歌詞と、超絶屈指のサウンドが織りなす疾走感と興奮。彼らの音楽は尺としては短いけれど、サウンドとしての内容量はその何倍にも感じられる。むしろこのバランスが最高の比率なのかもしれない。

「よし、17曲終わった。あと17曲」と、彼らのライヴならではの残り曲数を告げられ、“ドロドロ”“ダラダラ”“800”“透明人間”“ネジ”と爆走劇は続いていく。そして「ゲストを呼ぶぜ」と哲丸に呼ばれたのは、KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE’S〈カマトイラ、鎮座DOPENESS、YANOMAN(from カタコト)〉の3人。「ここからはダボダボのTシャツにベースボールキャップのノリだぜ!基本はジャンプ、ロックの基本はジャンプ!」と始まったのは新曲“ハグレティックトーキョー”! 今までの曲調とはガラリと変わり、ラップを基調としたロックチューンでこれがまたかっこいい。『ショートチューンメイカーの快速東京×ヒップホップ』という予期しなかったコラボレーションを見事に実現させ、快速東京の楽曲センスの幅をぐっと広げる1曲となった。

ゲストの3人が軽快にステージを去ると、突如一ノ瀬がカメラ付きの黄色いヘルメットを被りだした。「これでみんなのこと撮っていくよー」ということで、 “ロボ”に突入。そのまま“でんぱ”に続くかと思いきや、“でんぱ”のイントロで一ノ瀬のギターの音が消えた。「え、どうしたの?」と哲丸が聞くと、「いや、ちょっときつくて…」と一ノ瀬が首元のベルトを直す。フェリさんの長すぎたトークやオーディエンスに直接話しかけるMCも含め、どこまでも自由な雰囲気で進んでいく。なんとも年始らしい、笑いが絶えない楽しいライヴだ。気を取り直して“パピプぺパンク”“かっさい”と続くと、一ノ瀬はヘルメットを外した。

そこからスパートをかけるように「一番関係ない曲を」と始まった“コピー”“ワオワオ”と続け、さらに“ダンス”ではD(from カタコト)、“敏感ペットボトル”ではやけのはらが飛び入り参加! なんとも豪華なステージングとなった。そして「よし、じゃああと2曲。ほんとにみんなどうもありがとう。またね」と、まるでライヴが終わるのが「やだ」と言わんばかりのシンガロングを巻き起こした“やだ”、“テーマ”と締めくくった。

アンコールでは哲丸以外の3人がステージに戻り、インストでのセッションを披露。たった2分程ではあったが、彼らの高い演奏テクニックを披露するには充分な時間だった。そして哲丸が現れ、会場のハンドクラップに身体を揺らしながら“ふゆかん”“ギター”と続き、「とどめだ!」と釘を刺してからの“ゲーム”! さらにダブルアンコールでは“コンビニ”“ほしいの”で持ち曲をほぼ全部歌い切り、これぞ完全燃焼という形で幕を閉じた。最初にも書いた通り、1時間半で全38曲。文字通り今の快速東京のすべてを見せてくれたライヴだった。(峯岸利恵)
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