BiSHが示す不器用な「愛の形」――ドキュメンタリー作品からわかる彼女たちの美しい生き方

BiSHが示す不器用な「愛の形」――ドキュメンタリー作品からわかる彼女たちの美しい生き方
BiSH Documentary Movie "SHAPE OF LOVE"』は、今年の1月からスタートした「BiSH pUBLic imAGE LiMiTEd TOUR」から5月22日に行われた横浜アリーナワンマン公演までの活動を追っている作品だ。この期間は、BiSHの人気が急上昇したタイミングとほぼ重なる。『ミュージックステーション』に初出演した昨年の12月1日以降、彼女たちの知名度は一気に高まり、今年に入ってから勢いはどんどん増していった。ライブのチケットは横浜アリーナ公演も含めて即日完売を連発。3月にリリースしたシングル『PAiNT it BLACK』は、初のオリコンウィークリーチャート1位。様々な雑誌の表紙を飾り、テレビ番組で彼女たちの姿を観ることも多かった。しかし、グループとして急激に大きくなった分、メンバー各々が抱える悩みが深まった時期でもあったはずだ。舞台裏でのメンバーにも密着している今作は、そういう部分をかなり捉えている。

グループというものを語る上でよく用いられる言葉のひとつが「団結力」。これに関して独特なものがあるのが、BiSHの興味深い個性だと思う。学生生活の中で陽のあたる場所を歩けるようなキャラクターの人物がほぼゼロに等しいという事情もあるのだろうが……彼女たちの場合、この「団結力」がなかなか見えにくい。そして、そこが面白かったりもする。内向的なタイプが集っていて、アクの強いキャラクターを自由奔放に発揮し合っているのにも拘わらず、ちゃんと調和を生んでいるのがBiSHだ。そういう様子が度々垣間見えるのも、このドキュメンタリー映画の注目すべきポイントだろう。体調が優れないメンバーのために機転を利かせたり、胸を痛めながらも時には少々きつい言葉で改善するべき点を伝えたり、互いにしっかり支え合っているのに、そういう雰囲気をストレートに表に出すことに関して不器用な人たちばかりなのだなと、今作を観ていると度々感じる。

そんな彼女たちの姿の中でも印象的なのが、今年の3月に行われた「WACK合同オーディション合宿」の時の様子だ。恒例となっているこの合宿は所属事務所のグループに加入する新メンバーを選ぶためのもので、候補生たちが共同生活を送りながら様々な課題に挑むのだが、各グループの現役メンバーも参加して指導にあたる。今年の合宿に参加するBiSHのメンバーは当初、アイナ・ジ・エンドが予定されていたが、急遽モモコグミカンパニーに変更されたのは、本人たちにとっても清掃員(ファンの愛称)にとっても大事件となった。非常に魅力的な歌声を響かせるシンガーで、振り付けも手掛けていているアイナは、BiSHのパフォーマンスの要とも言うべき人物。一方のモモコは、歌もダンスもあまり得意ではない。小動物のような天性の愛くるしさがある彼女が一生懸命歌って踊っている姿は、胸がキュンキュンするかけがえのない魅力の塊以外の何ものでもないのだが、一般的な意味での「高いパフォーマンススキル」の持ち主ではない。このような彼女が合宿に参加したら、どうなるのか?

そして、ついに迎えた合宿。モモコはダンスや歌が得意ではないからこそ持てる視点も交えながら、素人に等しい候補生たちに丁寧な指導をする。しかし、なかなか思ったような結果が得られず、どんどん気持ちが落ち込んでいく……。この合宿の模様は、ニコニコ動画でライブ配信されて、私も当時、仕事をかなり大胆にさぼりながら様子を見守り続けていたのだが、モモコのことがずっと気がかりで堪らなかった。そして、合宿には参加しなかったアイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dも、居ても立ってもいられなかったはずだ。彼女たちがツイッターを通じて送った応援メッセージに滲んでいた何処か照れくさそうな様子、心配のあまり泣きながら合宿先のモモコに電話したのだというアユニ、合宿明けに5人と再会した際、赤ん坊のように泣きじゃくったモモコ――合宿中に繰り広げられたメンバーたちの人間模様は、とても素朴で泥くさいものだが、胸打たれずにはいられない。そして、「こういう人たちなんだよなあ」ということを感じさせてくれる。

芸能界を目指す動機に関しては、「自分を変えたい」という旨のものを聞くことが多い。モモコの心の奥底にもそういう想いが少なからずあったそうだが、合宿の終盤で彼女は「変わりたくて入ったBiSHなんですけど、変わり続けるっていうのはすごい大変で。今、3年やってきたんですけど、だんだんもとの自分に戻りたくなるんですよ。そんな中、合宿候補生に交じってやったダンスと歌が楽しくて」と語る。そして、本来楽しいはずのことをBiSHでやれている幸せを再認識したのだという彼女は、「BiSHのモモコグミカンパニー」として今後も全力投球することを誓う。今作に盛り込まれているメンバーによる心情吐露の中でも特に生々しいが、これはアイナ、チッチ、ハシヤスメ、リンリン、アユニにとっても激しく共感できるのものではないかと思う。「変えたかった自分」を抱えながらBiSHとなり、活動が始まったら「変わっていった自分」が確かにいて、でも「どう変わりたかったのか?」が時にはわからなくなり、「BiSHとしてどう変わり続けて、メンバーのひとりとしてもどう変わり続けるべきなのか?」が見えなくなることもあり、「変わらなくていいものもあるのかもしれない」という想いが募ることも度々ある――という日々を繰り返しながら、6人は歯を食いしばりながら歩んでいるのではないだろうか。

そして、実はこれは決してステージに立つ人間だけが直面する課題ではないようにも感じられる。理想が胸の内で息づいているのをありありと感じるのに、「求めているその理想とは、具体的には何なのかがわからない」という迷いに絶えず苛まれ、蜃気楼と追いかけっこをしているかのような感覚となるのは、あらゆる人生につきまとう出口の見えない苦しみだ。「向上心/迷い」という対照的な想いの間を忙しく行き来しながら暮らしている我々と同じように生きていて、それでも諦めることなく「楽器を持たないパンクバンド」として進み続けている結果、着々と広い世界へと向かいつつあるBiSHの活動は、たくさんの勇気を我々に授けてくれる。親の前では聴けないエッチな言葉を連発する曲を突然リリースしたり、メンバーの名前もキャラクターもどう考えてもイカれていたり、『ミュージックステーション』でコマネチをしちゃったり、MVでウンコまみれになったり、ライブ直前の舞台袖での気合い入れの言葉が「ちんぽ!」だったり……ツッコミどころが満載の人たちだが、BiSHは人の生き方として美しいものも示しているグループだ。『BiSH Documentary Movie "SHAPE OF LOVE"』には、そんな彼女たちの姿が音楽、ライブとはまた別の形で刻まれている。こんなにも支持を集めるグループになっている理由が、自ずとよくわかる作品だと思う。(田中大)

BiSHが示す不器用な「愛の形」――ドキュメンタリー作品からわかる彼女たちの美しい生き方 - 『BiSH Documentary Movie "SHAPE OF LOVE"』通常盤『BiSH Documentary Movie "SHAPE OF LOVE"』通常盤
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