RADWIMPSが18歳世代に寄り添って作り上げた一回限りのステージの素晴らしさについて

「将来に対する思い、不安なところというか。そこに対して僕も思い出したところが多くて。自分という一人だけの世界が、自分の世界のすべてで、その中の船長として生きていくのは本当に大変だったなって思うし。この苦しみと悲しみ、このつらさって、どう自分で乗りこなせばいいのかって」

10月8日に放送されたNHK総合『RADWIMPS 18祭(フェス)』。アーティストが1000人の18歳世代(収録当日に満17歳〜19歳)の若者たちとひとつのステージを作り上げるこの特番は、2016年のONE OK ROCK、2017年のWANIMAに続いて3回目だ。18歳世代がそれぞれに熱意を込めた無数の応募動画を目の当たりにしながら、野田洋次郎は前述のようにコメントしていた。

『18祭』参加者のドキュメンタリー映像に触れていつも思うのは、「18歳世代」とひと括りにしてみても、そこには本当にいろんな人がいるということだ。すでに就職して働いている人、専門的な技能を身につけようと夢を抱いて進学した人、特殊メイクが好きでインターネット上に動画を公開しながら、進路を決断できずに思い悩む人もいる。幼少期から吃音の症状を抱えつつ、仲間たちに支えられて大学サッカーのゴールキーパーとして日々の練習に励む男性。いじめをきっかけに不登校の時期を過ごし、人間関係を避けようとしてきた女性。逆に言えば、彼らには「約18年の人生を生きてきた」ということ以外、共通項は見当たらないということになる。

RADWIMPSは、『18祭』史上初の試みとして、課題曲を2曲、用意した。冒頭で触れた野田の思いは、まず“万歳千唱”という楽曲の《君の中のカナシミを喜ばせて 君の中のクルシミを勝ち誇らせて》という歌詞に込められることになる。女声の高音部と低音部、そして男声による3声コーラスがスタジオシンガー/ゴスペルディレクター田中雪子の協力によってもたらされ、またダンサー/コリオグラファーのTAKAHIROは、ボディパーカッションの振り付けに「SNSを飛び越えてリアルで触れ合う」という意図を込め、隣の人とタッチするアイデアを持ち込む。

仲間同士で楽しそうに制作された応募動画に触れ、野田は「友達がいるやつへの憧れが強い」と笑う。もうひとつの課題曲“正解”には、18歳という節目に経験する友との別れがひとつのテーマとして込められた。練習会では、この曲の2番の歌を参加者に任せることが明かされる。歌詞を読み込み、気持ちを込めて歌うことを指導する田中雪子。しかし、あの不登校を経験した女性は「全部私には分からない。共感ができない」と率直な思いを露わにする。周囲の人々と距離を置いていた彼女を自主練習会の場に連れてきたのは、最初の練習会でペアを組んでいた女性だった。グイグイと手を引いて輪の中に入り、笑い合って練習に励む。

9月9日の「RADWIMPS 18祭」開催当日。野田は「はね返して、はね返し合いたい」という強い意気込みを口にして、1000人が待ち構える会場へと向かった。“万歳千唱”とは、つくづく素晴らしいタイトルだ。この4文字を目の当たりにするだけで、声を張り上げずにはいられない気持ちになるはずである。加えて、打楽器隊とボディパーカッションによる押し寄せるような歓喜のビートが凄い。三声でデザインされたコーラスも、高音女声パートによるサビ部分のパンチが効いていた。

そして、野田がピアノを奏でて始まり、武田祐介がチェロを弾く“正解”。この特番には「探し続ける 僕らの未来」というサブタイトルが付けられていたけれども、まさに生涯をかけて答えを追い求める、そんな決意を促す美曲だ。その歌詞には《想いの伝え方が分からない 僕の心 君は無理矢理こじ開けたの》という一節が織り込まれていた。

RADWIMPSとして初めてライブを行った横浜B.B.streetを3人が訪問するシーンで、桑原彰は、野田が書いてきた楽曲に衝撃を受け、勝手に音楽コンテストに応募し、優勝したことを回想していた。その一曲から、間違いなくRADWIMPSの歴史は大きく動き出した。RADWIMPSとして歩む道のりが「正解」だったのかどうか、彼らは一生をかけて証明してゆくのだろう。

無数の、それぞれの「正解」を追い求める道が交わる一点で、一曲の音楽が分かち合われるということ。それは大げさでもなんでもなく、ひとつの奇跡である。あの場所にいた1000人だけではない。18歳世代だけではないかもしれない。『RADWIMPS 18祭』は、それぞれの道の途上に鳴り響き、ときに決定的な意味をもたらす音楽の力を、教えてくれた。(小池宏和)
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