CHAIは「NEOかわいい」の先へ行く。新アルバム『PUNK』で鳴り響く「生きやすさ」へのヒント

CHAIは「NEOかわいい」の先へ行く。新アルバム『PUNK』で鳴り響く「生きやすさ」へのヒント
CHAIが2月13日にリリースした新アルバム『PUNK』が、明らかにこれまでの作品と一線を画しているというか、一つの高みに到達したようなアルバムになっていて驚きを隠せない。もちろん過去作と通底する部分はあるものの、新たなタイプの音やリリックが登場しており、CHAIが次のフェーズに入ったことが証明されている。

『PUNK』と過去作との違いには、たとえば従来のアルバムやEPに散見された、インパクト大のコミカル的要素があまり見受けられないという点が挙げられる。以前の作品には“ぴーちくぱーちくきゅーちく”、“ぎゃらんぶー”、“Sound & Stomach”など、おもちゃの音を曲中に入れてみたり、言葉の響きで遊んでみたり、そんなことまで音楽にしちゃうの?と思うような人間の生理的なことを歌詞にしてみたりと、フックの強い楽曲が目立っていた。加えてそれらの多くはガレージロック感満載のローファイで骨太なバンドサウンドに乗っかっていて、ユニークなリリックやアレンジのインパクトがより増強される形となっている。

しかし『PUNK』では、屈強なグルーヴはそのままに、さらに多彩で深みのあるアレンジが、全編にわたって施されている。ミディアムテンポに乗る愛らしくて爽やかで今まで以上に分厚いボーカルのユニゾンが多幸感を連れてくる“ウィンタイム”や“FAMILY MEMBER”、陽気なホーン隊のサンプリングが効いた“THIS IS CHAI”、腹の底に響くベース&ドラムと美しいコーラスの組み合わせがたまらない“ファッショニスタ”、ニューウェーブ風のキーボードと甘いボーカルが夢見心地をもたらす“カーリー・アドベンチャー”、《LOVE LOVE, all we want~》のゴスペルチックな合唱がCHAIのサウンドメイクに新たな風を吹かせている“Feel the BEAT”。ドでかいインパクトをリスナーの脳天に叩きつけるというよりは、音の良さをじっくり噛みしめられるような、ストレートにグッとくる楽曲が豊作である。1stアルバム『PINK』収録の“ほれちゃった”、3rd EP『わがまマニア』収録の“Center of the FACE !”など、これまでにもサウンドの良さを味わえる曲はたくさんあったけれど、『PUNK』の楽曲群のアレンジは一層緻密で幾重にも重ねられており、だからこそ今まで以上の驚きや至福感をもたらしてくれるものとなっている。


また『PUNK』を語る上で忘れてはならないポイントがある。CHAIが新たな価値観として掲げてきた「NEOかわいい」という言葉が、どの曲の歌詞にも見当たらないことだ。ルックスに関する表現自体も少ないように思われる。代わりに今作で据えられているのは、「自分の内面を変えて、もっと自由に生きやすくしよう」という歌だ。《落ちこんではCRY & CRYして/部屋のすみでROCK & ROLLなんて/このままではNOT OK!/さーて、抜けださなきゃ DON’T STAY》(“CHOOSE GO!”)と図星な表現を使いつつ現状打破を鼓舞するフレーズがあれば、《大人になるって/それが理由で/気をつかうばっかじゃ/そんなのつまらない/大人になるって/もっと自分とちがう人とふざけ合える/そう なればいいな》(“FAMILY MEMBER”)と大人の生きにくさを取り除こうとする一文もある。今作でもハッとするような新しい概念や価値観がいくつも提示されており、辛いのがデフォルトになっている生き方やステレオタイプの考え方から抜け出すためのヒントがたくさんばらまかれているのだ。CHAIの音楽を聴いていると、いかに自分が自ずと窮屈な生活を選択してしまっているかを思い知らされる。外見のコンプレックスと向き合うCHAIは博愛的だと思ったが、内面のコンプレックスと闘う最新のCHAIもまた、すべての聴き手の心に自由を与えようとする慈愛の深い人たちだと思う。そういう新たな一面が歌詞で開花したという点においても、『PUNK』は一つの高みに達した作品と言えるだろう。

CHAIがインパクトの次に送り出した至福のサウンド、「NEOかわいい」の次に提示した生きやすさへのアプローチは、彼女たちが登場した時と同じように、きっと多くの人々の苦悩にはたらきかけていくに違いない。新アルバム『PUNK』には、現代を生きる人たちへ向けられたCHAIからのメッセージと愛情が、ぎゅっと詰まっている。(笠原瑛里)

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