ビリー・アイリッシュはなぜ「世界最大のアーティスト」になりうるのか? 音楽との出会いから、彼女にとっての「正念場」までを語る

ビリー・アイリッシュはなぜ「世界最大のアーティスト」になりうるのか? 音楽との出会いから、彼女にとっての「正念場」までを語る

絶望感の漂う『アメリカン・ホラー・ストーリー』的な美学へと、向きを鋭く変えたアイリッシュ。彼女は眼窩から漆黒の血を流し、タランチュラを顔に這わせ、手荒く扱われ、姿の見えない何者かから何本もの注射針を刺される。そこから掻き立てられるイメージは、テイラー・スウィフトケイティ・ペリーというよりも、ナイン・インチ・ネイルズマリリン・マンソンといったショック・アーティスト達のイメージだ。

決定的なのは、アイリッシュがラップの世界からも、時には漫画的とも言えるアウトローなエッセンスを——実際にラップを試みることなく——吸収しているという点だ。 自己提示の手本としてアイリッシュが挙げているのは、タイラー・ザ・クリエイターや、チャイルディッシュ・ガンビーノ、そしてインフルエンサーのブラッディ・オシリスら。そして彼女の音楽には、強制ではなく自発的に、現在では至る所で用いられているトラップ・プロダクションの要素が取り入れられている。

「皆、ヒップホップを称えるべきよ——今は世界中の皆がね」とアイリッシュ。「どんな音楽をやっているのであれ、皆ヒップホップの影響を受けているんだから」。

それでも彼女は、精神的に安定したティーンエイジャーであり、彼女のリスナーの中心は若い女性達だ。彼女はそんなリスナー達に、現代の様々な事象に対する抵抗や反発について、独自の視点を提示。最新アルバムの中でも特に傑出している曲“xanny”では、SoundCloud世代の人々が依存している薬物——精神安定剤や医療用麻薬の鎮痛剤——について、懸念と軽蔑を含んだ態度で取り上げている。「ドラッグなんてなくたって私は気分良くなれる」と彼女は歌う。「私にドラッグなんて渡さないで、今もこれからも絶対に」と。

既に人々の手本になっていることについて、彼女は淡々とこう述べている。「そういう責任については完全に認識しているし、そのことに関しては確かに考えてる」とアイリッシュ。「でも、それによって私という人間が変わることはないな」。

これまでのところ、彼女は大体において、悪評が口コミで素早く広まるインターネットの世界で、落とし穴に引っかかり炎上してしまうといった状況に陥らずに済んできた。そういった悪夢を見たことがあると、かつて語っていたアイリッシュ。しかし名声が高まるにつれて、監視の目はより細かく厳しいものとなり、最近、“wish you were gay”という曲をリリースした際に、彼女はその一端を味わっている。(同曲の一節は次の通り:「あなたが無関心な理由を説明してみる/私のこと、タイプじゃないなんて言わないで/ただ私があなたの性的指向に合わないだけだって言ってほしい」)。

その件で小規模の反発を受け、「私としては、本当に精一杯の努力をしたのよ」と語るアイリッシュ。 「侮辱を意図したものじゃないってことは、一目瞭然だと思ってた。だけどそれが、人々が敏感になる単語だということは、私も理解してるわ」。

彼女がより気色ばんだのは、昨年殺害された若きラッパー、XXXテンタシオンとの友情について言及した時だ。彼は以前、DVの加害者として申し立てを受け、強く非難されていたからである。この話になった途端、キッチンにいた彼女の母親が、冗談交じりではあるが、別室にいるアイリッシュの広報担当者に呼び掛けた。「私は亡くなった人を追悼出来るようでありたいし、それを恥ずかしいことだとは思いなくない」とアイリッシュ。XXXテンタシオンの死を受け、ライヴで楽曲を捧げたアイリッシュは、次のように述べている。「亡くなった人への愛を示すことが、憎まれることに値するとは思わない」。

この発言についても、指示を与えようと口を挟む者はいなかった。 家族によって彼女は常に脇を固められているがが、今後数カ月の間に自身の人生が変わり続けていくことは彼女も予期しており——質問はより厳しく、期待はより大きいものとなり、プライバシーはより少なくなることに——多少うんざりしてはいるものの、自分は逞しくなったと感じている。

以前、兄のフィニアスは、妙に現実離れしたアイリッシュのブレイクについて、「周りに左右されない自律的なものだし、もの凄い速さで前に進んでいる。そして僕らは全員で、それに取り組んでいるんだ」と評していた。そこで相槌を打つのは、彼女の父だ。「これは電車や川の流れと同じ。あるいは竜巻だね。物凄い勢いで、皆で一緒に飛んでいるんだよ」。フィニアスがさらにこう言い添える。「だけど危機を脱しようとするよりも、安全に旅を進めて行く方が、遥かに簡単だと感じるね」。

アイリッシュもその見解に同意。彼女はその瞬間瞬間に集中して取り組むと同時に、常に全体から物事を眺めていると言う。そして特に彼女を突き動かしているのは、コンサートがどんどん大規模なものになっていく兆しを見せていることだそうだ。ファンにとって彼女のコンサートは、今や宗教的な経験に近いものとなっている。彼女は神経質そうにライターに火をつけて、前のテーブルの上に置いてあるサボテンの先端を少し焼いた。

「今いるこの場所が、私の正念場だってことは実感しているけどね——つまり、ここ一番の時だってこと」と彼女。「これがいずれ古き良き時代になるってことね」。



ビリー・アイリッシュはなぜ「世界最大のアーティスト」になりうるのか? 音楽との出会いから、彼女にとっての「正念場」までを語る - 『ホエン・ウィー・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥー・ウィー・ゴー?』『ホエン・ウィー・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥー・ウィー・ゴー?』

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