DJバトル世界一のDJ松永とMCバトル日本一のR-指定――今こそCreepy Nutsの話をしよう

Creepy NutsのDJ松永が、今年8月に行われたDJ大会「DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS 2019 FINAL」で優勝し、先日フジテレビ系『ワイドナショー』に出演、その放送後に行われた世界大会でも見事優勝し「世界一のDJ」(ターンテーブルを操る技術を競い合う部門にて)となった。まずは心から祝福をあげるとともに、日本のお茶の間にその名が轟いた今、改めて彼らの話をしたい。

Creepy NutsはHIP HOP/ラップシーンで、以前より確実に実績をあげてきた。「世界一のDJ」となったDJ松永はもちろん、その相方であるR-指定は、日本最高峰のMCバトル「ULTIMATE MC BATTLE(以下UMB)」大阪大会にて5連覇、その「UMB」全国大会で2012年から全国3連覇を成し遂げているほか、若きラッパーの登竜門である人気番組・テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』では今年から「ラスボス」の座を般若より受け継いでいる。さらにR-指定のすごさは、「即興(=フリースタイル)」でラップすることに加え、他者から複数のキーワードをもらい、それらをバースに含めながら即興でラップするいわゆる「聖徳太子スタイル」に象徴される。これは本当に感動レベルなので一度見てみてほしい。

こうして、各々ピカイチの技術を持ったR-指定とDJ松永がCreepy Nutsとしてアウトプットする音楽には、「ナナメ」な感情が表れているのが特徴だ。ラッパーといえば不良や破天荒のイメージを持たれるが、不良でもなく、かといっていじめられっ子でもなく、そのすべての人間の性質や表と裏をじーっと観察し、卑屈にとらえた感じ。本来なら言葉にできない(しない)「あ、嫌かも」と心の奥の方で芽生えた感情を見事に音楽にしている。

調子どない 悩める多くのマイメン
今すぐOpen Your Eyes
興味のない どころかホント嫌い 飲み会 オフ回 女子会
「そうですか、分かります、そうです。ハイ!」
としか言えない上司とか
教祖みたいな先輩に愛想笑い でも誰よりプライド高い
ボ ボンボクラ 女の子が怖い てか普通に目見れない
ようしゃべらん どもって情緒不安定 誠に申し訳ない
大きな声で 騒ぐ陽気なタイプとは 仲良くなれそうもない
だってあいつ等 空気読み合い ウェーイが飛び交い
まともな 脳みそない

――“たりないふたり”

それはやたらクオリティーの高いMVもしかりだ。
個人的にお気に入りの“だがそれでいい”のMVでは、アラサー世代の誰もが心当たりのある「あ、嫌かも」、「あ、恥ずかしい」が散りばめられ、ギクッとする人も多いのではないだろうか。自分も少なからず持っている「ナナメ」の感情のツボを刺激してくるところが面白く心地よくもあり、だから一人でこっそり聴くのをやめられなくなるのだ。


しかし、これだけ実績をあげてしまえば卑屈という言葉に矛盾が生じてしまうことも彼らは知っている。メジャーデビュー後の2018年4月にリリースされたフルアルバム『クリープ・ショー』のラストを飾る楽曲“スポットライト”、今年8月にリリースされた最新ミニアルバム『よふかしのうた』のこれまた最後に収録される“生業”などではかなり胸を張り始めているのでそのアップデートを感じてほしいし、二人とも「No.1」という称号を得た今、今後どういう音楽が生まれるのかかなり楽しみにしている。

最後に、Creepy Nutsを語る上で欠かせないラジオの話もしたい。彼らがニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』の火曜日を担当し始めたのは2018年4月なのでまだ約1年半だが、ラジオ好きの中ではかなり注目されており、テレビ東京『ゴッドタン』の「芸人ラジオサミット」という企画では芸人に交じりがっつり取り上げられていたほどだ。つい今週も、DJ松永が世界一となってから一発目の放送を楽しみにしていたが、余裕で帰ってこられるところ彼はまだロンドンに残っており、現地でエド・シーランを探す(※番組内に「大江戸シーラン」というコーナーがある)模様をFaceTimeで中継するというカオス回で、拍子抜けするとともに爆笑してしまった。ラップにもDJにも人生をかけている二人だが、ラジオに対する覚悟も相当なものがある。

DJ松永が優勝し世界一になった直後は、マネージャーの電話が鳴り止まなかったそうだ。当然メディア露出も増えるだろう。ここ最近Creepy Nutsという名を初めて耳にした人は、ここに挙げた楽曲、MV、ラジオ……何か一つでも気になったものから、今、手を出すべきだ。日本のHIP HOP/ラップシーンは今間違いなくアツい。(金秀奈)
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