2020年を迎えたこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2019年の「年間ベスト・アルバム」上位10枚を、10位〜1位まで、毎日2作品ずつ順に発表していきます。
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【No.7】
『エヴリデイ・ライフ』
コールドプレイ
地球のサウンドに耳を澄まして
コールドプレイ史上、もっともシンセ・ポップ的な祝祭感に溢れていた前作『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』(15年)から早4年。本作は、その後の長い長い長いワールド・ツアーを経て、ついに届けられた通算8枚目のアルバムである。
“Sunrise(日の出)”と“Sunset (日没)”という2つのパートに分かれる形で収録された全16曲は、コールドプレイ史上最高にエクスペリメンタル(実験的)な刺激に満ち、かつサウンド的にバラエティに富んでいる。過去の偉大なる音楽(クラシック音楽、アメリカン・ゴスペル)へのオマージュ・タイムもある。本格的なアレンジへ仕上げていく前のスケッチ・バージョンのようなトラックもある。かと思うと、未来のライブ会場での大合唱が聴こえてきそうなアンセム・ソングもある(その名も“チャンピオン・オブ・ザ・ワールド”)。とにかく、何でもありのアルバムなんだ。
これまでの彼らは、政治的な発言については常に慎重なスタンスだったけど、本作はその点でも大きな転換点となった。“トラブル・イン・タウン”や“ガンズ”といった楽曲ではジャーナリズム的な視点が導入され、誤解しようのないメッセージを容赦なく叩きつけていく。ゲスト陣のチョイスも大胆で、ここにはリアーナもザ・チェインスモーカーズもいない。代わりに聴こえてくるのは、ズールー語で子供たちが唱えるチャントであり、ベルギー人のラッパーのストロマエであり、さらには「魂のガイド」として登場するフェラ・クティやアリス・コルトレーンのジャズである――こうやって文字にするだけだと、どれも意味を成さないように思えるかもしれない。でも、実際には、そのすべてが綺麗に一本のラインに繋がっていく。
ご存じのように、本作のリリース後、コールドプレイは、温室効果ガスの問題など、地球の環境に害を与えない形での長期ワールド・ツアーが技術的に可能になるまで、次のツアーを封印する旨の声明文を発表した。彼らのライブをしばらく観られないのは残念だけど、逆に言えば、次に観るときは「歴史が動く」瞬間であり、その歓喜の宴の中心となるのが本作の楽曲群なのかもしれない。エブリデイ・ライフ。今この瞬間も、世界のどこかでは日が昇っているということ。コールドプレイの新しい旅は、まだまだ続く。(内瀬戸久司)
「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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