特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(12日目)

特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(12日目)

2020年を迎えて早くも初夏に。パンデミックの影響で巣ごもりの時間が長引くなか、音楽を心の拠りどころにする人も多いことでしょう。そこで、ロッキング・オンが選んだ「2010年代のベスト・アルバム 究極の100枚(rockin’on 2020年3月号掲載)」の中から、さらに厳選した20枚を毎日1作品ずつ紹介していきます。

10年間の「究極の100枚」に選ばれた作品はこちら!


2015年
『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』
ケンドリック・ラマー


特別企画! ロッキング・オンが選んだ「2010年代 究極の100枚」からTOP20を発表!(12日目)

歴史の上に生きている、という実感

ケンドリック・ラマーは2010年代に4作のアルバムを放ち、とりわけ2作目以降はいずれもヒップホップ/ポップ・ミュージック史上に燦然と輝く名盤として評価を得ている。2015年作『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』はグラミーのラップ部門を制し、なぜアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得しないのかという点でも大きな議論の的になった。言ってみれば、議論を巻き起こす影響力そのものが、このアルバム最大の主題でもあったのだろう。

前作『グッド・キッド、マッド・シティー』では、西海岸ギャングスタ・ラップ最盛期のカリフォルニア州コンプトンで少年時代を過ごした経験を私小説的に綴り、90年代とテン年代のヒップホップを接続させることに成功したケンドリック(それまで、西海岸ギャングスタ・ラップは言わば「失われた過去」となっていた)。『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』はそこからラップのテーマを拡大させ、彼自身の成功の光と影、そしてアフロアメリカンが置かれる立場の歴史的構造が相互に響き合う、詩的でありながらもどこか歴史サスペンスのような壮大なドラマ性を帯びた作品になった。

この歌詞の作風と、上質なサンプリングを含む古き良きヒップホップ・マナー、最新ブラック・ミュージックをリードするプレイヤー陣の演奏が合致し相乗効果を生むことで、本作の説得力は絶大なものになった。現代ジャズを含むアフロアメリカン音楽との接点が巧みに仕掛けられ、そこでケンドリックは自身のリアルな体験を経由しながら、利権と暴力にまみれた社会の搾取構造を暴くという離れ業をやってのけたのである。

次作『ダム』では先鋭的な同時代性こそがサウンド面の重要性を担っていたが、「たぶらかされた蝶」=羽ばたいても抜け出すことのできない悪しき歴史的構造を音と言葉で糾弾する『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』は、真にヒップホップの歴史的な意味と役割を伝えているのだ。8歳当時のケンドリックが、父親と出かけたショッピング・モールで、トゥパックドクター・ドレーのMV撮影現場を目撃し感銘を受けたのは有名な話。トゥパックのインタビュー・テープを用いて架空の対話を作り上げた最終トラック“モータル・マン”は、壮大なアルバムをケンドリック自身の物語として纏め上げる手捌きが見事で、泣ける。(小池宏和)
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