コロナ禍の今、洋楽来日アーティスト事情はどうなる? 主催者が語る、一度きりのフェス『スーパーソニック 2020』。そして、大きな転換期を迎えつつある洋楽シーンのこれから
4月6日の時点で、5月いっぱいの海外アーティストのすべての来日公演のキャンセルを発表した、クリエイティブマンプロダクション。――まず、4月6日の時点で、5月31日までの来日公演を延期もしくは中止するというアナウンスを行いましたよね。これは英断でしたけど、いろんなことを考えたうえで行ったことだと思うんです。経緯はどういうものだったんですか?
サマーソニックの主催者であり、今年はクイーンやビリー・アイリッシュの招聘を手掛ける洋楽シーンの牽引者であるプロモーターだけに、その決断は重いものだったはずだが、しかし同時に素早く明快で、ユーザーにとっては対応しやすかった。フェス主催者としての、状況に即した、ユーザーとの近い距離感が生んだ的確なオペレーションだったと思う。
そして一方で、オリンピック・イヤーで幕張メッセが夏場に使えないことからサマーソニックはお休み、だったはずの今年だが、9月にZOZOマリンスタジアムでThe 1975、スクリレックス、ポスト・マローンをヘッドライナーに迎えた「スーパーソニック」の開催が発表されている。
コロナ禍の現状をふまえて洋楽コンサート・ビジネスをどう運営していくのか、そして「スーパーソニック」の内容について、代表の清水直樹氏に訊いた。
インタビュー = ロッキング・オン編集長 山崎洋一郎
「うちが最初に延期を決めた来日アーティストがピクシーズで。それが2月24日からのツアーだった。同時期に韓国のヒョゴは来日公演をやっていたんだけど、そのあたりから今後続いていく来日ラッシュをどうしようってことを考えはじめて、そこから2週間ぐらいは、様々なドラマが起こったんです。一番大きなドラマは、アーハだったのかな。彼らは直前までジャパン・ツアーをやるって言っていたのね。実は、どちらかというとプロモーターって受け身なんです。
だから、彼らがやるという限りは、それを全うさせてあげなきゃいけない。その安全対策をどうとるかっていうので、来日の1週間くらい前から、サーモグラフィをどうするか?とか、マスクは全員に配布できるか?とか、いろんなことを考え進めていたんです。でも3月7日という(3月10日のジャパン・ツアー初日)直前に、思っていた以上にシリアスな状況と、(東京公演の)会場の東京ドームシティホールから、どうにか中止か延期にできないかって言われたことがあって。これは、もうアーティストを僕らが説得する側にまわらなきゃいけないなって。プロモーターがライブを中止してくれ、延期してくれって言うことって、コンサートの世界ではめったにないことなんです。
3月7日の夜は、彼らはオーストラリア・ツアーが終わりニュージーランドでショーをやっていて、翌日に東京に飛ぶっていう日だったんだよね。エージェントはロンドンだったから、東京とロンドンとニュージーランド、その3ヶ国で、その夜に会議をはじめて。まず僕らのほうから伝えたことは、とにかく今日本に来ることが、アーティストにとって今後ポジティブにならないと。アーティストもお客さんも危険だし、プラス、どれだけのお客さんが来てくれるかわからない、ひょっとしたら(チケットを持っている)半分くらいの人しか来ないかもしれない。そういったリスクのある時に来るのは正解ではないと。会場からも、できたらやらないでほしいと言われているということも伝えた。
ただ、この仕事はネガティブなことだけではなく、次のビジネスのことも同時に考えなきゃいけないので、これを中止にしたらダメージが大きいから、延期するとなるとどうなるのか。かかったキャンセル費やいろんなものは次のツアーで補填するから、すぐに次のスケジュールを押さえようと話して。ツアーの全部がソールドアウトだったから、もう1ショーどこか追加して、その1ショーで、今回かかったいろんなダメージの費用をお互いに補填しようとか、様々な側面から話したうえで、その日の深夜に『わかった、明日の日本行きをとりやめて、ここから帰るから』って言ってくれた。ギリギリでそういうことをやったんです。ここまで、ちゃんと説得して来日前日にやめてくれて、次のことにもフェアに対応してくれるアーティストってなかなかいない中で、アーハとエージェントはそれをやってくれたんです。
その時に、これはもう、僕らプロモーターは、今後の来日公演も全て腹を括んなきゃいけないな、実際できないだろうという予測の下に、そこからは全てのアーティストに働きかけた。来たくないっていう人にはもちろん、今は来なくていいよと。(それでも来たいという人には)こちらから、今は来る時ではないと説得しはじめた。そういう経緯がまずあったっていうところが大きかったかな」
――今、あちこちでライブの中止や延期が日常茶飯事になっているけれど、そのためにいろいろ考えなきゃいけないこと、向き合わなきゃいけないことがあって。しかも、その時だけじゃなく、将来のポジティブな着地点まで考えて、ビジネスとして成立させるというマインドでやらなきゃいけないですよね。清水さんは、最初のアーハの時に、それを一から十までやった結果、ほんとに今の時期はキャンセルすべきだっていう結論になったということなんですね。
「そうだね。まず、2月末から5月末まで、30ぐらいの来日公演があった。そこから各担当が各アーティストに、いろんな交渉をしていったんです。アーティストによって契約形態もバラバラだし、延期したい人、キャンセルしたい人、それでも今やりたい人、いろいろいる中で、繊細に一人一人のアーティストに向き合って」
「ただ、アヴリル(・ラヴィーン)とかグリーン・デイみたいな大きいアーティストは、中国も含めてツアーをまわっていたから――1月末の段階で中国は感染が広がっていましたよね――だから彼らは、2月の中旬ぐらいには、ちょっと中国も行けないし、日本だけ行くっていうことはできないから、これは延期になるだろうと言われていたし、僕らも次の日程を探しはじめていたんだよね。そうやって、さらに早い時期から話していたアーティストも、実はたくさんいた。ただ、発表が遅れてしまったアーティストもいたのは、(延期や中止が)決まったらすぐに発表したいっていう人もいるし、振替の日程が決まるまでは発表しないでくれっていう人もいて、そのリクエストも様々だったから、お客さんへの対応が早くできる場合と、遅くなってしまうことが、どうしても物理的に出てしまったよね」