デヴィッド・ボウイの新作『ザ・ネクスト・デイ』のプロデューサー、トニー・ヴィスコンティ、新作の経緯と楽曲について語る

デヴィッド・ボウイの新作『ザ・ネクスト・デイ』のプロデューサー、トニー・ヴィスコンティ、新作の経緯と楽曲について語る - アルバム『ザ・ネクスト・デイ』アルバム『ザ・ネクスト・デイ』

1月8日にシングル"ホエア・アー・ウィー・ナウ?"を突如配信し、10年ぶりの新作『ザ・ネクスト・デイ』を3月にリリースすると明らかにして大きな話題となっているデヴィッド・ボウイだが、アルバムのプロデューサーを務めたトニー・ヴィスコンティがアルバムの詳細や経緯についてローリング・ストーン誌の取材に応えている。

2004年に受けた心臓の動脈瘤手術以来、活動から遠ざかっていたデヴィッドだが、トニーは手術から1年後には連絡を取り合うようになり、折に触れて会食などもしていたそうだが、その頃からデヴィッドは元気そうだったものの音楽活動についてはまったくおくびにも出さなかったとか。それが突然、2年ほど前に「デモをまた一緒に作るのなんてどう?」と持ちかけられて正直トニーの方が少しうろたえてしまったくらいで、日常の会話の話題のひとつとしていきなり持ち上がったことだったらしい。

ただ、トニーはあいにく別なプロジェクトに取りかかっていたので、それを数日後に済ませると、そのままニューヨークのスタジオに入って早速デモ制作に入ったそう。デヴィッドはデジタル・レコーダーで楽曲を書いてきており、ベース・ラインやドラム・パターンなどの肉付けがある程度出来上がっていて、これをギターのジェリー・レナードとドラムのスターリング・キャンベル、デヴィッド、そしてトニーでさらに形にしていく作業を5日続け、5日目にはレコーディングを試みたとのことだ。この最初のデモ・セッションの際にデヴィッドは8曲楽曲を用意してきたとトニーは語っているが、そもそも今回創作に打ち込み始めた動機についてデヴィッドはただ、「また書こうっていう気分になったんだよ」とだけ説明していたという。

このセッションが2010年の11月に行われ、その後デヴィッドは「じゃあ、これからまた書くから」とだけ言って、4か月間作業はなかったとトニーは説明している。その次には2011年4月にニューヨークのスタジオに入ってまた2週間作業を続け、その後もデヴィッドが曲想を練っている間にトニーが音源に重ねる音などを調整する作業を続け、常に連絡を取り合いながら、デヴィッドが曲を書いてはその後に招集をかけるという作業を断続的に繰り返したそうだ。

トニーによれば、"ホエア・アー・ウィー・ナウ?"のような回想的な楽曲はアルバムではほかにはなくて、ほかの楽曲はより観察的な視点で書かれたものになっていて、デヴィッド自身の人生にまつわるような内容でありつつもデヴィッドなりの社会や世界についての切り口を示すものにもなっているという。タイトル・トラック"The Next Day"はイギリスの中世にモチーフをとっていて、無能な暴君について歌った内容になっているのだが「歌詞を読み込んでいくと、かなり怖い話になっているんだよ」とトニーは説明している。

この"The Next Day"と"Stars (Are Out Tonight)"というトラックがアルバムでは際立ったロック曲となっていて、その一方で、アルバムの2曲目となっている"Dirty Boys"はミッド・テンポのファンクで、非常に蠱惑的なナンバーになっているとか。またこの"Dirty Boys"では人気テレビ番組『サタデイ・ナイト・ライヴ』の箱バンのサックスを務めているスティーヴ・エルソンがデヴィッドの希望で客演していて、50年代のストリップ・バー的な場末感がよく出たサックス・ソロとなっていて、「『ヤング・アメリカンズ』に収録されていてもおかしくない感じだね」とトニーは説明している。

その一方で"Dancing Out in Space"は基本はモータウン・ビートだが、サウンドはサイケというロック・トラックになっていて、こちらではデヴィッド・トーンというギタリストがかなりクレイジーなサウンドを弾きまくっているとトニーは明かしている。あるいは"Boss of Me"というトラックはスローなファンク・ナンバーとなっているが、トニーから見るとこの曲の特徴はメロディがこれまでのデヴィッドの作風とはかなり違っているところで、典型的なボウイ作品とは毛色が違っていて、よくできたトラックになっているという。

ほかにはアルバムを締め括る"Heat"がとてもドラマティックな曲になっているとトニーは語っており、深くて低いヴォーカルを聴かせるデヴィッドのバラードの真骨頂だとのこと。歌詞的な内容はよくわからないとしながらも、監獄にいる心境か、あるいは心の中で鎖に繋がれた心境になっていることを歌ったもののような気がするとトニーは語っている。

また、戦争や兵士の心理状態を描いた作品もあって、それが"How Does the Grass Grow"、"I'd Rather Be High"の2曲で、そのほかにも"Valentine's Day"、"(You Will Set) the World on Fire"などといったロック・ナンバーが揃っているという。

なお、アール・スリックなど参加したミュージシャン全員にはとにかく極秘裏に事を進めることが義務付けられたというが、危うくレコーディングの事実が露見しそうになったことが一度だけあって、ある人物が今回のセッションのことをリークしてしまったとトニーは語っている。

「それがロバート・フリップだったんだよ! 演奏してくれないかってお願いしたんだけど、やりたくないということで、そのままデヴィッドから声をかけられたってロバートは自分のブログに書いちゃったんだね。でも、誰もロバートの書いたことをまともに取り合わなかったんだよ。数日は肝を冷やす感じだったけど、誰も彼もが『事実のわけないよな? ロバート・フリップ以外の誰もそんな話はしていないし』っていうことで落ち着いちゃったんだよね」

なお、デヴィッドは新作についてはツアーは考えていないが、そういう気分になったら、散発的なライヴならやってもいいと語っているそうだ。
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