こんなに頻繁にスウェードが来日してライヴを繰り広げるなんて、少なくとも5年前の筆者なら「は?」だったし、ましてや『JAPAN JAM』でandropやBOOM BOOM SATELLITESとステージを分かち合う日が来るなんて、半年前でさえ思いも及ばなかったことだ。ロック・ファンで居続けて良かったし、生きてて良かった。2日目アンカーを務めるスウェードというバンドを、ごく個人的な感慨とともに簡潔に説明するならば、そういうことである。おなじみのSEであるラフマニノフの“ピアノ協奏曲第2番ハ単調 作品18”、そして満場の拍手と嬌声に包まれて暗転したステージにぼんやりとメンバーのシルエットが浮かび、最新アルバム『Bloodsports』 から“For The Strangers”のイントロがじわじわと立ち上がると、黒シャツ&スラックスのブレット・アンダーソン(Vo)が最後に姿を見せて、その伸びやかな歌声を染み渡らせてゆく。“It Starts and Ends with You”でエネルギッシュにステージ上を右へ左へと動き回り、オーディエンスを見据え、或いは跪いて歌い、軽快なステップも披露するブレット。リチャード&ニールのギター・リフが荒ぶる“Filmstar”では、マイクも振り回す序盤の加熱ぶりだ。
しかし、いよいよとんでもない光景になっていったのは“Trash”からだった。フロアにマイクを向け、盛大なシンガロングにまみれる、これほとんどワンマン公演じゃん、という光景。思えば、2012年の『NANO-MUGEN FES.』でもそうだったけれど、洋邦混合イヴェントだろうがお構いなしに発揮されるスウェード楽曲の底力はやはり半端じゃない。「グッド・イヴニング、トーキョー!」と、ブレットは満足げな表情で挨拶を挟み込み、この後も“Animal Nitrate”、“We are the Pigs”、更にはそのカップリングだった“Killing Of a Flashboy”と、90年代前半のシングルを連発してゆく。ニールのキーボード・イントロに導かれた美曲“Everything Will Flow”では、最初のコーラスからオーディエンスに歌メロを預けてしまうのである。凄すぎて笑ってしまいそうだ。熱狂のライヴを繰り広げる理由は、往年の名曲群による力だけではない。近年の日本ではユニコーンやLUNA SEAといった好例があるけれども、確かな演奏力といい、感情表現を全力で伝えるモチベーションといい、スウェードもまた「カッコいい再結成」の新基準を打ち立てているバンドなのである。デビュー曲“Drowners”から“Can’t Get Enough”を経て、ステージの淵に腰掛けたまま“By The Sea”を歌い上げる2014年のブレットの姿は、変わらず美しかった。
新曲“I Don’t Know How to Reach You”は、円熟味を感じさせるフレーズの交錯で編み上げられた狂おしいロック・ナンバーだ。12曲目を数えてなお、汗だくになってスリムな身体をシェイクし続けるブレットである。そこから再び“So Young”→“Metal Mickey”と、フロアを跳ね上がらせる90’sシングル曲を連発し、普遍性を叩き付ける“New Generation”でオーディエンスの歌声を浴びる。「どうもありがとうトーキョー。もうおしまいなんて本当に寂しいよ。また来るからね」と告げて、“Beautiful Ones”で万感の本編フィナーレを迎えたブレットは、晴れやかな笑顔のまま「アリガトウ」と自身の右拳で胸を叩き、高く掲げる。更には、アンコールに応えての“Stay Together”というダメ押し。全17曲、ほぼフルセットのスウェードという感無量ライヴであった。今後、スウェードは5/6には大阪で、5/7には東京で、それぞれ単独公演を行うので、そちらもぜひお楽しみに。(小池宏和)
3日間の熱演を「ROCKIN’ON JAPAN 7月号(5/30発売)」にてレポートします。お楽しみに!