SHE’Sは新譜を聴くたびにその多彩さに驚かされるが、今作もまたこれまでにない一面を見せてくれた。
まず、魔法をかけられたような夢見心地なイントロから引き込まれる。「SHE’Sが提示する90’S CITY POP」という通り、彼ららしい美しいメロディが、歌うようにうねるホーンセクションやキラキラとしたシンセを織り交ぜたサウンドによってより一層洗練された印象だ。
音に合わせてか、井上竜馬(Vo・Key)の歌い口もフラットで軽やか。英語詞と日本語詞をシームレスに行き来するリリックと井上の歌声が合わさると、夢見心地な楽曲のムードはさらに加速し、タイトル通り重力を忘れて心も体もふわふわと浮いていくような感覚になる。
しかし裏声が美しいサビから《脳内総動員で考えたって/大抵グラスの底に沈むの》と地声に切り替わる瞬間は、恋をしたときの浮ついた気持ちから、好きな人の前でうまく立ち回れない自分という現実に切り替わるようで、夢見心地なだけでは終わらないのが面白い。
やっと過ごしやすくなってきた秋の夜長、散歩をしながら聴いたら気持ちいいだろうな。
(余談だが、MV冒頭のカフェのシーンで小室安未さんが被っているキャップは今年のROCK IN JAPAN FESTIVALのグッズでは…と違う意味でもドキドキした。)(藤澤香菜)
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恋心は夢と現を行き来する――SHE’Sの最新曲“No Gravity”を聴いて
2023.11.10 12:00