彼らの作品は叙情的な楽曲を中心に振り幅がかなり広く、「こういうバンドだ」と言い切るのが難しい。12月13日にリリースされた最新シングル『お祝い / 萌芽』も、どちらも「春」を彷彿とさせる楽曲ではありながら、立ち位置は大きくことなる2曲だ。
“お祝い”は中塩の作詞作曲。歌詞だけをみると、《彼女は東京に向かうバスの中》で、自分はその彼女との記憶を反芻しながら後悔の念に駆られている様子が描かれているのだが、サウンドは意外にも軽やかで春の日差しの温かさやきらめきすら感じる。春という季節に無条件に感じる希望とその中に芽生える不安、理由のない焦燥感――そんな一筋縄ではいかない感情を、歌詞だけでなくサウンドでも見事に表現しきっているのだ。後悔や未練はある。しかし、それも抱いたまま前へ駆け出していく。そんな「明るい別れ」がイメージできる快作だ。
そして“萌芽”は平川が作詞作曲しており、タイトルこそ明るい未来を思わせるが――「嫌な予感」を音にするとこういう感じなのかな、と思うような“お祝い”とはまったく毛色の異なる一曲だ。規則と不規則を繰り返しながら重なる音の一つひとつに心がざわつく。
《回転していない歯車をずっと引き摺ってできた轍を/何も考えない目線がずっとそれを捉える/「何かできれば良かったね」そう話してはいたけど》というサビの歌詞と、平川の淡々としたボーカルが一層楽曲の不穏さを引き立てる。最後、アウトロで一気に爆発しうねるギターは、声にならない叫びのようで、不穏を越えて狂気を感じる。
しかしこれほどまでに不安な気持ちや焦燥感を駆り立てることができるのは、緻密な楽曲構成があってこそだ。Khakiのアレンジの多彩さが表れている1曲だと思う。
ふたりのソングライターがいるからこそ楽曲の振り幅も広げられるのはバンドの大きな魅力だ。しかしバンドイメージがブレることなく、どの曲も「Khakiの曲」としてまとまっているのは、中塩、平川含め各パートの音作りのブレない軸と情熱があるからだろう。譲れない軸を中心に据えながら進化し続ける彼らの歩みを、しっかりと見届けていきたい。(藤澤香菜)
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