MGMTを聴いた!!!!!

MGMTを聴いた!!!!!

ただいま2月26日金曜日12時。いきなりではありますが、MGMTのニュー・アルバム『コングラチュレイションズ』のレビュー解禁時間となりましたので(ほかのサイトでも解禁されているかどうかは知りませんが!)、正真正銘、世界超最速のディスク・レビューをおっぱじめさせていただきます!!!!

というわけで、このアルバム。すでにジャケットも公開され、その突拍子もなさと予想と期待のほうりだし加減に賛否両論となっているわけだけど、そんなことは小さい小さい。なぜなら、肝心の中味、つまりはその音そのものもあまりにもぶっとんでいて、それこそ賛否両論はおろか、とりあえずは初めて聴いたときは口はあんぐり両肩はだらり膝はくにゃりで地面にどろどろでれー、みたいなことになったのだから。

事前情報を整理しておくと、今作のプロデュースはバンドとソニック・ブーム、ミキシングに前作のプロデューサーのデイヴ・フリッドマン。ゲストにはロイヤル・トラックスのジェニファー・ヘレマが参加している。レコーディングは昨年、ニューヨーク北部の郊外や、西海岸のマリブ、そして拠点ブルックリンで、ツアー・メンバーを交えて行われた。アンドリュー・ヴァンウィンガーデンは、「ファースト・アルバムはあらゆる皮肉を込めた作品だったけど、今度の作品にこそ真のボクらの姿があると思える」そうで、このセカンドには「タイム・トゥ・プリテンド」や「キッズ」のようなシングルはない、とも語っているけれど、そのとおり。そんなものはどこにもなかった。

というか。そういうものが不要となった、そういう「ロック・ソング」が必要とされなくなった怒涛のようなただただひたすらな「音の洪水」がやってきた、というべきだこのアルバムは。全9曲、たった44分のこのアルバムは、すごく簡単に言ってしまうとめくるめくサウンドの巨大叙事詩、ぎゃがうあうああそいどどどどちゅーんちゅーんひゃららららら~どどどどちゅりりりりーんコングラチュレイショ~ンズ♪というサウンドなのである。

頭がおかしくなったわけではない。自分でもかなり正確にレビューしているつもりである。1回目の印象は、たぶん、誰もがそんなふうなことになると思う。だって、音の洪水のその先で、気がついたらいきなり別世界に立たされて、コングラチュレイショ~ンズ♪と歌われていた、そんな感じだったのだから。

すでに報じられている通り、このアルバムにはTVパーソナリティーズのダン・トレーシーに捧げられた曲、そのものズバリなブライアン・イーノという曲、レディー・ガガやカニエ・ウエストを引用し名声をテーマとしたインストがあることや、あるいは、覚えたてのサーフィンといったキーワードが提出されている。それは何を意味していたのか。

結論からいうと、何も意味していなかった。いや、もちろん、ものすごく重要な要素としてこの音の宇宙を飛び交っているのだけど、それらはつまり、まさにこの世界の表層として飛び交っているのだ。そして、その世界の速度の、あるいはわれわれと世界との接点がいまどのような正体の無さとしてあるのか、そのメタファーとしてのサーフィン。そんな薄っぺらで実体のない2010年の世界への旅のヒントとして、それらのエレメンツは散りばめられているのだ。

自分でも書いていてちょっとどうかと思ったので、整理しよう。このアルバムは、世界と向き合っている。その世界とは、いまわれわれが生きている世界だ。それはどんな世界だろう? どんな実感があるだろうか? そう思い浮かべたときの手触りは、感じるそばから霧散していくような、そんなものではないだろうか。このアルバムは、ひとつにはそんな「世界の絶え間ない希薄化」を感じることの焦燥と絶望と憤りを音にしたらこうなったとでもいうものだ。だから、彼ら特有のアイロニーな視点は、より高次なレベルであちこちで暴発している。そして、もうひとつ。このアルバムは、そんな2010年の世界において、わたしたちはどのような魂を手にするのかといったことを問う。今作のクライマックス、12分に及ぶ大作だからほぼアルバムの4分の1をしめる「シベリアン・ブレイクス」で、アンドリューは珍しく、こんなフレーズを繰り返す。「I HOPE I DIE BEFORE I GET SOLD」。

リーマン・ショック後の世界で、すべてがナノレベルで金融工学化された世界で、自分を売らないこと。自分を売らないで生きていけるかと問い質すこと。凄いことである。『コングラチュレイションズ』は、この2010年の世界において、この世界はどうやら間違っていると、そして、そんな間違った世界で自分を売らないで生きていくことを決意するという、そういうアルバムである。どうだろう? ロックとはそういうものではなかっただろうか。世界を疑い、自分の魂を信じる。それが、ロックである。気づけば太古の昔の物語のように聞こえてしまう、そんなメッセージを、MGMTはいま、この現在に提出したのだ。

訊かれれば何度でも言うが、凄まじいアルバムである。いま、本気で「もう『KID A』はいらなくなったのかも」と思っている。
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