次はサマソニ! ヘッドライナーのベック最新ライブを観た。極彩色でキャリア最高にポップ。さあ、準備は万端!!

  • 次はサマソニ! ヘッドライナーのベック最新ライブを観た。極彩色でキャリア最高にポップ。さあ、準備は万端!! - pic by Sachyn Mital

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サマーソニックでヘッドライナーに決まっているベック。最新のライブがNYのマジソン・スクエア・ガーデンで7月19日に行われたので観て来た。

ライブの前日にTV出演して披露したパフォーマンス映像はこちら。



内容的には、これまでのライブで最もカラフルでポップだった。しかも、NY公演では彼が大好きだというバンド、スプーンのブリット・ダニエルや、前座だったジェニー・ルイスもゲストで出演。ポップなライブにするために、できることは全てやったというような力の入れ方だった。実は、少し驚くくらいの華やかさではあったのだが、よく考えてみれば、サマーソニックではチャンス・ザ・ラッパーの後にメインステージに出演する。チャンスのライブは弾けまくっているので、これくらいの華やかさでぴったりだ。ベックは、新作を作る時にはライブで盛り上がる曲を作りたいとも言っていたし、新作を発表する前にはフェスにも出演していた。今のポップ・ミュージックと一緒に聴かれることを想定して作られた新作だったというわけだ。

また、ベックが途中で「マジソン・スクエア・ガーデンで演奏するのは初めてなんだ」とも言ったのには驚いた。ここまで長いキャリアも、成功も、人気もあるのに、アメリカの成功の象徴MSGでやったことがなかったとは! それは全くの意外なことだったし、確かにこの日のライブを感情的な意味でも特別なものにしていた。

しかし、さらに面白いのは、MSGでやるのが厳密に言えば実は「初」ではないということ。ブルース・スプリングスティーンとの思い出があるというのだ。1997年に『オディレイ』でグラミー賞にノミネートされた際、MSGでパフォーマンスしてそれがTV中継された。なのでMSGでの演奏は経験済み。演奏を終えたベックが控え室に戻ると、もうひとりそこに待っている人がいて、それがなんとブルース・スプリングスティーンだったという! 「僕が彼を見たら、彼も僕を見て、『ここで何しているんだ?』と言うから、僕も彼に『あなたこそここで何しているんですか?』と言ったんだ(笑)」あまりにシュールな思い出話だ。

私は去年の日本でのライブを観ていないので何とも言えないのだが、以下のレビューを読んで推測するに、全体としてはこの日本のライブで原型ができて、今回のツアーはそれを何倍か華やかにしていって、彼が最初から思い描いていた完成型ができたのではと言える内容だったと思う。
https://rockinon.com/blog/shibuya/168722
https://rockinon.com/live/detail/168707

始まりの”Devils Haircut” が、まず何よりこの日のライブを象徴していた。これまで何度も聴いてきた曲だが、ほとんどヘビメタという言えるような重厚なギターアレンジで、うお!と盛り上がったから。しかも、それに合わせたセットのライティングも強烈で、一瞬で叩き起こされるような、雷が直撃したような新ベックのモードが全開になっていた。この日に披露された多くのヒット曲は、全体的に新作モードにアレンジされていた。

そこから"The New Pollution"、”Mixed Buzness"、”Up All Night"と、新作の”WOW”まで、ものすごいパンチ力と勢いで駆け抜けるから面食らう。

その後一息で、”Qué Onda Guero”の少しメロウなサウンドになり、その後、自分のひいひいおじさんが違法でNYまで船でやって来たという話を披露してくれた。「ひいひいおじいさんがアメリカにやって来て、ニュージャージーに渡り、そこから歩いて(NYの)クイーンズまで行ったんだ。そこで僕のお母さんが生まれた。お母さんは、(NYの)グリニッジビレッジに住んでいた。僕は、LAから30ドルだったから、グレイハウンドバスに乗り、NYに来た。そこでローワーイーストサイドに住んでパフォーマンスを始めたんだ。だからここで今日ステージに立てているのは、小さな奇跡に思える」と言って、”Blue Moon”を披露した。

それは、NYと彼の結び付きを語るじーんとくるような話であり、彼のここまでの長いキャリアを振り返るような内容でもあり、また、現在、移民を締め出す政策をアメリカの大統領が行っていることを思うと、直接的な言い方ではなかったが、違法でアメリカに夢を求めて渡ってきたひいひいおじいさんがいたからこそ今の僕があるんだ、とベックなりの方法で訴えていたようにも思えた。今の狂ったようなカオスに反発するために、この新作のポップな華やかさがあることを説明するようでもあった。

また、とにかくポップで押せ押せだったわけではなくて、面白かったのは、「セットリストを決めるのが実は難しかった」と彼が語っていたこと。「と言うのも僕は、これまでアルバムごとにスタイルを変えてきたから。それなのにここまでずっとついて来てくれてありがとう。または、僕をここまでずっと甘やかし続けてくれてありがとう」と。ちょっと前にMSGでライブをやったレディオヘッドじゃないけど、何だかキャリア全般を「祝福」するようなライブにも半分なっていたと思う。

それで、それだけスタイルを変えてきたので、「今日ここに集まった人達が僕のどの作品を好きで来てくれているのかイマイチ分からなかった」と。確かにそうである。そしてそれが、ベックがここまで人気を獲ていながらも、MSGでライブをやったことがなかった理由だ。1枚ごとに着実にファンを増やしていくタイプではなくて、毎回スタイルを変えるので、毎回がチャレンジのようなライブになる。実際、みんなで食卓について音を鳴らし出したような時期もあったし、NYで観た『シー・チェンジ』のライブは、ステージにひとりで立つベックを囲むようにピアノやアコギなどが何となく並べてあり、それをベックが思いついたように手に取り、しかし最高のライブをやってしまうという内容だったりしたから。

でも今回のアルバムは、今のポップ・ミュージックの最大公約数と結び付き合うことを追求した作品だったわけで、だからこそMSGでやるべきだったし、ベックはフェスのヘッドライナーを担うにぴったりのアーティストでもあるのだ。

とは言え、しっかりとアコギ/オルタナ感のあるパートもあり、『シー・チェンジ』からは”Lost Cause”をやってくれたし、『One Foot in the Grave』からは何と14年ぶりに演奏するというレアな”Girl Dreams”を披露。アメリカの各メディアが報じている、ファンによる映像がこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=R3Bbhi7xMV0

しかも、この曲をジェニー・ルイスと共演したのだ。それを決めたのはジェニーだったらしくて「昨日彼女からテキストが来てこの曲で共演したいと言われたんだ。それで僕は、こんな曲誰も知らないよ、と言ったんだけど、『でもこの曲はビル・マーレイのお気に入りの曲なのよ』と言われて、それならそれだけで十分やる価値があると思ってやることにした」と。この日楽屋で練習してそのままこのステージで演奏したそう。そういう自然な流れを見せた箇所もベックらしさを引き出す良い演出となっていた。映像はこちら。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=R3Bbhi7xMV0

また、スプーンのブリット・ダニエルと豪華共演したのは、新作の中でもビートルズ的なサウンドと色合いの広がり方をみせる”Dear Life”。映像はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=FDr4KYlx8yI

ベックは途中で「『新作の中では誰も知らない曲』と言って”I'm So Free”を演奏したが、実際は、ヒット曲だらけだ。しかも、例えば”Think I'm In Love”では、ドナ・サマーの”I Feel Love”をマッシュアップしたり、”Girl”では、カニエ・ウェストの”Power”をマッシュアップ。さらに、”Where It's At”では、ビートルズの”Strawberry Fields Forever”の《Let me take you down》という歌詞を混ぜたり、もともとある曲をさらにパワーアップさせてパフォーマンスした。

また、これはNYでフェスに出演した際も披露していたけど、バンドメンバーの紹介の場面では、NYにちなんでA Tribe Called QuestからChic、TelevisionVelvet UndergroundTalking Headsまでメドレーでカバーして、会場はとりわけ盛り上がった。

その他の曲と言ったら、新作からは”Dreams”、そして”Loser”だったりするわけで、盛り上がらないわけがない。

ベックは新作で目指したことを、ライブの映像でも、セットリストでも、サウンドでも、最大限の形にしてパフォーマンスしていた。サマソニでのヘッドライナーをお楽しみに!

この日のセットリストは以下の通り。
Devil’s Haircut
The New Pollution
Mixed Bizness
Up All Night
Wow
Qué Onda Guero
Think I’m in Love / I Feel Love
I’m So Free
Dear Life (with Britt Daniel)
I Turn My Camera On (with Britt Daniel)
Girl Dreams (with Jenny Lewis)
Lost Cause
Blue Moon
Dreams
Girl
Colors
Loser
E-Pro

Encore
Where It’s At
Can I Kick It? / Good Times / See No Evil / I’m Waiting for the Man / Taking It to the Streets / Once in a Lifetime / In the Air Tonight
One Foot in the Grave
Where It’s At (Reprise)
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