ビリー・アイリッシュが「トランプは最悪だから落選させよう!」と訴える。ハイテク・ライブで圧倒的才能を見せつけた

ビリー・アイリッシュが「トランプは最悪だから落選させよう!」と訴える。ハイテク・ライブで圧倒的才能を見せつけた

アメリカでは10月24日に行なわれたビリー・アイリッシュ史上初の試みとなったライブストリーム『WHERE DO WE GO? THE LIVE STREAM』は観ましたか? 最っ高でしたね!!!

プレショーで待っている間のドキドキ感から、終わってしまう瞬間の寂しさまで、ライブでの体験が可能な限り再現されていたと思う。しかも世界中の人達があの場に結集しているのも実感できたし、本当に超貴重な体験となった。

https://twitter.com/billieeilish/status/1319833302203678725

今回のライブは、簡単に言ってしまえば、曲にしても、サウンドにしても、メッセージ性にしても、彼女のグッチの上下にナイキのハイカット・スニーカーまで、ここ数年彼女がやってきたことの総括、そして映像においてはそれが前代未聞の最新版に更新されたものだった、と言える。

ライブの始まりは、最新ツアーと同じセットリストだった。影となって登場した女の子や、巨大なタランチュラ、海底を泳ぐサメやその中で浮くキャラクターなども前回のツアーやMVに登場したものを今回は最新テクノロジーXR(バーチャルとリアルを混ぜた)ビジュアルと巨大LEDスクリーンでさらに進化させていた。彼女の勢いと人気、またビリー自身がビジュアルには拘るからこそ可能だった超豪華な試みだったと思う。

また、その他大事だったのは、そこで掲げた政治的メッセージだ。 それも彼女がここまで訴えてきたメッセージと一貫するものだ。

https://twitter.com/billieeilish/status/1320120524295589888

ライブの最後に彼女が言ったのも、「マジでお願いだから投票して!」だったし、ライブの途中にも、「投票して、投票して、お願いだから投票して。選挙まであと10日しかない。ものすごく大事な選挙だから。とりわけ若い人達にとっては超大事。だって未来があるのは私達だから。ただ、みんなが投票しなかったら、私達全員死んでしまうと思うけど(笑)。いかに大事なのかこれ以上言いようがない。事前投票して。私は先週投票したけど、すごく楽しかったし、嬉しかった。私達が何かしなくちゃいけない。地球が死に向かっているから。そして人々は死んでいるから。そしてトランプはマジで最悪だから(笑)」と語った。

その背景には、「地球が死んでしまったら音楽は鳴らない」と掲げられていた。これはフィニアスもツイートで掲げているけど地球温暖化を訴えるミュージシャン達による団体名でもある。

https://twitter.com/billieeilish/status/1320115459895791616

しかし、こんな画期的なエンターテインメントの中で一番感動したのは、やはり彼女の破格の才能だったように思う。実際にライブに行くと、最初から最後まで観客の歓声が凄すぎて、ぶっちゃけ彼女の声はほとんど聴こえない。だから今回の良かったところは、良いスピーカーに繋げられて、彼女の声の表現力の豊かさが隅から隅まで堪能できたことだ。また、フィニアスによるアレンジの繊細さもとことん楽しめた。ほとんど全曲が感動的で常に涙が出そうなくらいだった。世界一のエンターテイナーでありながらも、個々の心にささやき、訴えかけてくるそれが彼らの最大の魅力でもあると思うのだ。さらに彼女のカリスマ性も併せ、やはり何十年かに1人の存在であることを改めて確信できた。

ライブの1曲目は“bury a friend"で、カウントダウンの後いきなり始まったからびっくりした。真っ赤なライトは、自らへの警告を発しているようだった。影となって映し出された女の子は前回のツアーの冒頭にも登場した。火の中を彷徨い歩いたので、悪夢に登場した自分の分身なのかもしれない。

ここから“you should see me in a crown”、“my strange addiction”、“ocean eyes”までは途中で終わってしまった最新ツアーと同じ流れだ。

https://twitter.com/billieeilish/status/1320108370800615430

MCでよく笑ったりふざけたりしているのは、彼女らしい。アデルのライブにも似ているところだと思うのだけど、曲では一瞬でディープにダークなところまでいくので、MCではそれを笑いで緩和しているのだと思う。

ビリーは「今日はみんなと一緒になれて本当に嬉しい。本当ならみんながここに来られて、みんなに触れられたり、感じられたりしたらもっと良いけど、それはできないから、これがその代わりに最大限にできること。でも大丈夫。絶対にみんなで楽しめる。みんなでクレイジーになろう!」と始めに言った。

https://twitter.com/billieeilish/status/1320093166586953735

“you should see me in a crown”では、MVや前回のツアーにも登場する巨大なタランチュラに襲われそうになったりする。“my strange addiction”までは1曲目からの継続で、世界に対して、または自分内での異変に警告を鳴らしているという流れに見える。

ムードが一転するのが、“ocean eyes”。事前に選ばれた500人のファンが一瞬スクリーンに映し出され、ここからさらに自分の内面に向かって深く入っていく。MVを再現するセットの“xanny”では彼女のボーカルの高音の美しさ、悲しい響きに涙目になってしまう。

https://twitter.com/billieeilish/status/1320032475117023232

次はビジュアル的なハイライトだったとも言える“i love you”で、フィニアスと一緒に登場。

「これってマジでクレイジーだと思う。こんなことやるの初めてだし。できることになって本当に嬉しい。みんなに会いたくて仕方ない。兄のフィニアスとは、知っている通り、曲を一緒に作っていて、今新作を作っているの。あ、言っちゃった(笑)。それについてはまた後で、ということにして、今から“i love you”を歌うね」と紹介した。

ここでは大きな月を背景に、果てしなく続く星空の中に2人が浮いているように見える。前回のツアーでも最も美しい場面で、2人がその曲を一緒に作ったというベッドが再現され、それが宙に浮いて、巨大な月と星が浮かび上がるというセットだった。

美しい自然の、しかし闇の中にいるというのがポイントだと思う。続く“ilomilo”では今度は巨大な海の底に深く潜る。ここで登場するサメもMVに出て来たし、キャラクターも前回のツアーにも登場していた。星空やまたは海底深く沈む感覚は彼女の心理をビジュアル化しているように思う。最後に歯の鋭いサメに飲みこまれてしまう恐怖感も含めて。

そこから、ボンド映画のテーマ曲“No Time To Die”が壮大に演奏された。

https://twitter.com/billieeilish/status/1319435127030595584

「みんな家でブランケットか何かにくるまってゆったり観てくれているといいなあ。みんな安全で、暖かくて、幸せでいてくれれば嬉しい。今回観客の前で歌っていなくて唯一良いことは、みんながモッシュピットで倒れていないこと。私は今回ライブができて本当に嬉しい。みんなに会えなくてすごく寂しいから 」と今度は文字通り真っ暗闇の中ビリーが小さい存在になり、“when the party's over”をパフォーマンス。始まりのコーラスが鳴り響いただけで、もう感極まってしまう曲だ。この日実感したのは、ありとあらゆる場面で、ライブを観た時の空気感を思い出すことだった。この曲の前奏が始まった瞬間には、観客のぴりっとした雰囲気も思い出した。この曲が感情的なハイライトのひとつだと思う。

そしてここで再びエネルギーを変えて、自分達が外に向けて何をしていくのかを訴えるような、結論を見出すような終盤が始まる。

まず“all the good girls go to hell”ではMVや前回のツアーと同様に地球温暖化を明確に訴える。曲が終わると、最初に書いた「地球が死んでしまったら音楽は鳴らない」というメッセージに繋がる。そして最も感動的な場面のひとつでもあった、ファンの映像が背景に映り“everything i wanted”。ここでは、兄がいてくれるからどんなことがあっても自分は大丈夫と歌っているが、こうやって観ると、ファンのみんなには私がいるからきっと大丈夫だよ、と歌っているように見えた。実際それが彼女のアーティストとしての一番大事と思えるメッセージのひとつでもある。インタビューした際もそう言っていた。世界はカオスだけど、きっと大丈夫だから、とみんなに言いたいと。

それを象徴するように、続けて演奏されたのが、カオスの中から明るい未来を見出そうとする“my future”だった。主人公の女の子の独立と成長物語を描いたようなアニメーションは、ビリーが大好きと言っていた宮崎駿的な世界観が広がっている。拡大されたMVでの映像の中で、ビリー本人がその主人公になり、そこで描く優しさがより伝わってくる。そして、最後の“bad guy”の前にこう語った。

「あっと言う間に時間が過ぎてしまう。みんなにまたすぐに会えたら嬉しい、どれだけみんなに会いたいかと言ったら言葉にもできないくらい。ツアーに出てライブをやりたいと思っている。この外出禁止の期間中に、私が分かったことは、ステージだけが、私が自分らしくあれる場所だということ。自分がいるべき所属だと思えること。みんなの前にみんなと一緒にいることだけがね。

でも、その日は必ずいつか来る。

いつか必ず。あのオレンジの奴を落選させて追い出したら来る。またみんなと会える日がくるはず(笑)。ジョークで言ってるわけじゃないよ(笑)。あと1曲だけやるけど、みんな安全でいてね。水をたくさん飲んで。自分の体を大事にしてね。自分の人生が当たり前だと思わないでね。家族と友達によろしく伝えて。それでは“bad guy”をやるから」


そして「一緒に踊って」と“bad guy”を始めた。1つ前のツアーでは、最初の曲で、最新のツアーでは最後の曲。このビートが始まった瞬間の会場が揺れた熱狂と《white shirt》という歌い出しでの大合唱と絶叫を思い出さずにはいられなかった。それを体験したファンも、ビリーもそうだったんじゃないかと思う。

そして曲が終わった後には、スタッフに感謝をして、「アイ・ラブ・ユー! これがすぐに終わってみんなとまた会いたい。投票して、マジでお願いだから!」と言って終わった。彼女が使命感を持ってこのステージに立っているというのがよく分かるライブでもあった。

約1時間のセットリストこちら。
bury a friend
you should see me in a crown
my strange addiction
ocean eyes
xanny
i love you
ilomilo
No Time To Die
when the party's over
all the good girls go to hell
everything i wanted
my future
bad guy

ライブの前に行なわれたプレショーも、彼女がこれまでやってきたことが上手くまとめあげられていた。何より最初に彼女のお父さんが出て来て、前説のようなことをしたのが良かった。彼女とやっていたAppleでのラジオ番組も最高だったし、彼女と家族との強烈な結び付きが感じられる場面でもあった。

また、彼女が大好きなTV番組『The Office』に出演していたスティーヴ・カレルはじめ、リゾ、アリシア・キーズ、また兄のフィニアスが投票について訴え、彼女の母が行なっているベジタリアンの食事を医療関係者に寄付するチャリティ団体も登場。さらに環境保護についても訴え、そして彼女のコンサート・スタッフがインタビューされて、彼らがこの日以外仕事を失っていると支援を呼びかけていた。この日のチケットを買った人は特別なグッズが買えたがその利益の一部は世界のコンサートスタッフのために寄付された。

また彼女がこの4年間毎年行なっているVanity Fair誌の同じ質問に同じ日に答える企画も間もなく公開と予告編が流れた。

https://www.youtube.com/watch?v=69DZ8Dsm2vA&feature=youtu.be

これが過去3年。

https://www.youtube.com/watch?v=YltHGKX80Y8&feature=youtu.be

また事前に予告されていたように、来年2月に公開されるドキュメンタリー映画の映像も一部流れた。アルバムの冒頭を思いついて収録しているところだ。無邪気さが最高。

https://twitter.com/bilsourcemedia/status/1320129915891683329

ハイライトはトリビアで、20問あったのだけど、これがかなり難しくて私は全然当たらなかった。ビリーが初めて髪を染めたのは何歳?(9歳)とか、2020年1月どこでバケーションを過ごしたか?(ハワイ)、ビリーが階段から落ちて、足首をねんざしたのはどのライブの前だったか?(LAグリークシアター)、ビリーの飼っている犬シャークの誕生日は?(2月9日)、ビリーの好きな飲み物は?(タイ・アイスティー、レモネード、ファンタ)、ビリーとフィニアスは何歳離れてる?(4歳)、“don't smile at me”のアートワークの階段を作ったのは誰?(ビリーのお父さん)、“xanny”のMVでビリーの顔に付けられるタバコは何本?(7本)、ビリーがツアー中に一番やるカードゲームは?(スピード)、ビリーが病院に行った時どこにおしっこをしてしまったか?(床)、ビリーの靴のサイズは(8)、ファンが歯向かったらビリーはインスタをどんな画面にするか?(黒)などなど。

また最初に最新ツアーで流れていた“not my responsibility”(私の責任じゃない)というボディ・シェイミングを訴えるビリーの映像が観られて、それもクオリティが高く強烈だったので良かった。

始まる前のサイトは、日本語のページもあってファンが交流できるようになっていたし、ファンが自分の描いたビリーのアートワークを送ったり、ビリーの曲を演奏したりする映像を貼り付けたりしていた。もちろんグッズも売っていたが、その他投票についてのページもあり投票を呼びかけていた。

ビルボード誌によると、7月1日から9月30日までの間に、無料ライブストリームへのアクセスは26%減少したそうだが、有料ストリームへのアクセスは577%も増えたということ。ビリーのライブ配信のおかげで、アクセスは過去最高になったはずと言われている。

新作も作っていると言うし、ドキュメンタリーも公開されるし、今後もまだまだ楽しみだ。10日後に行なわれる大統領選挙も含め、未来は分からないけど、ビリーもいつも言っているようにこの瞬間を最大限に楽しめるライブだった。ビリーありがとう!



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