赤い公園『猛烈リトミック』:世界を知るためのレッスン【後編】
2014.09.24 11:50
赤い公園セカンドフルアルバム『猛烈リトミック』のレビュー、前回(http://ro69.jp/blog/ogawa/110306)の続きです。
その勘違いを正してくれたのが、“風が知ってる”の《凍てついた心/きっと溶けてゆく/誰もが疎んでも/大丈夫さ/その体温は僕と/風が知ってる》という最後の歌詞とメロディだった。ここにあるおおらかな人と人、人と世界との交わりに、僕ははっと気付かされたのだ。赤い公園が、津野米咲が、何を望み何を求めているのか。『公園デビュー』後初のオリジナル・リリースとなったこの曲には、それが正直に表れていた。
『猛烈リトミック』を聴いての印象は、その気付きの延長線上にある。『公園デビュー』のときには半分閉じていたコミュニケーションの回路が開き、楽曲には常に「誰か」の存在がちらつき、その「誰か」とのつながりを大きな世界の中で認識している。『公園デビュー』より前、2012年に書かれたという“きっかけ”をバンドでレコーディングしたことが、文字通り津野にとっての「きっかけ」となったのかもしれない。今作で津野は、率直に世界とのつながりを求め、そこで生きることを選んでいる。遠く離れた「誰か」に思いを伝えたいと願い(“NOW ON AIR”)、コミュニケーションの困難さを見つめながら素直になりたいと思い(“誰かが言ってた”)、孤独な「私」に歯がゆさを感じ(“私”)、世界との出会いに驚く(“楽しい”)。だからこのアルバムは、こんなにもポップだ。
卵と鶏のたとえのようになるが、津野が新たな一歩を踏み出したことが、このアルバムに複数のプロデューサー(しかも敏腕)が参加していること、そして“TOKYO HARBOR feat. KREVA”でKREVAと共演していること、佐藤千明の歌がぐんと伸びやかになっていること、サウンドの雰囲気が明るくなっていること、の理由となる。『猛烈リトミック』はまさにリトミックのように、人から手ほどきを受けながら、コミュニケーションをしながら、世界に対面しそれとつながっていく、そんなアルバムなのだ。
ところで、“きっかけ”はこの『猛烈リトミック』には入っていない。シングルの2曲目、ということでいえば“ひつじ屋さん”が収録されていることを考えると意外な気もするが、納得はできる。もう必要ないからだろう。“きっかけ”で津野が綴ったものは、より強く大きな形で、このアルバムに込められている。