秋の夜長(というには暑いけど)、再生するのはクリープハイプのライヴDVD。今年6月21日の中野サンプラザのライヴだ。まるで映画のよう、とか書くと陳腐だけど、こんなにも物語のあるライヴだったのか、と改めて思う。
尾崎世界観のストーリーテラーとしての才能がすごいのは、楽曲単位で紡がれた物語が、曲と曲の連なりの中でまったく違う色合いの物語に変貌していくというところだ。だからシングル曲がアルバムに収まったときには違う物語が生まれるし、ライヴのセットリストが変わるたびにそれぞれの曲に新しい意味が生まれてくる。そして、そのすべてが尾崎やバンドや聴き手ひとりひとりの「いま」の物語になっていく。「いま」生きている実感につながっていく。その感覚はありていにいえば奇跡のようだ。
僕はこのライヴをあの日あの時あの場所で観ていたわけだけど、やっぱり今観ると“左耳”にも“風にふかれて”にも“おやすみ泣き声、さよなら歌姫”にも違う物語を感じる。銀テープが飛んだ以外は派手な演出はほとんどなし、照明も控えめ、晴れ舞台にしてはストイックなステージは、できるだけ余計なものを排除して物語だけを感じさせるという意味ですごく効果的だった。
そういえばこのライヴで印象的だったのが、お客さんがやけに静かだったことだ。MCで尾崎も突っ込んでいたけど、妙な緊張感が漂っていた。でも、椅子席のホールだからそう実感しただけで、たぶんクリープハイプのライヴはいつもそうなのかもしれない。バンドが演奏しているあいだ、観客はひとりひとり、それぞれの物語を生きているのだと思う。その2000いくつの物語が例の「セックスしよう」で一気に交差して心を引っ掻いていく。それってまさにセックスみたいだよな、と思った。
DVD、本日発売なのでぜひ。音がものすごくいいです。