フランク・オーシャン『Endless』と『Blonde』に寄せて

フランク・オーシャン『Endless』と『Blonde』に寄せて

8月19日と20日に突如新作『Endless』と『Blonde』を2作立て続けにリリースしたフランク・オーシャン。とりあえずこれはとんでもない作品だ。スティーヴィー・ワンダーの『キー・オブ・ライフ』が出た時のくらいの事件だといってもいい。聴けば聴くほど書かなければならないことが山積みになってしまって、原稿を書いていくうちにとてもブログに掲載できるような分量に収まらなくなってしまった。なので、ここであらためて簡単に説明すると、フランクは2005年に地元ニューオリンズでハリケーン・カトリーナに被災して、日常的に使っていたスタジオが略奪され、さらに浸水して制作していた音源がすべてだめになってしまったため、二度とニューオリンズに戻らないという決意のもとロサンゼルスを目指して現在に至った。このストーリーと、(おそらく)ニューオリンズ在住時からの恋愛とその破局、さらに現在の心象や人間関係が錯綜する内容となっている。当たり前だが、フランクは音楽で名を成していくが、その一方でままならなかったものもたくさんあり、それをつまびらかにしていくというのがこの両作のテーマなのだ。

『Endless』はアップル・ミュージックのみで公開されているビデオ作品で、45分ぶっ続けでひたすら映像と音源が再生され、『Blonde』はアップル・ミュージックとアイチューンズで入手可能な通常の配信アルバムとなっている。内容について語り出すともう止まらなくなるのでここでは割愛させていただくが、フランク・オーシャンのすべてというものになっているだけでなく、ここまで生々しい愛を歌い上げたアーティストは本当にマーヴィン・ゲイ以来なのではないかと思う。ただ、海外の世間的には『Endless』に対して風当りが強い。『Blonde』に較べるととっちらかって散漫な作品だという評価が多い。さらにフランクがデフ・ジャムとの契約をこの『Endless』で終わりにしたというのも物議をかもしている。特にデフ・ジャムは『Endless』のビデオ・リリースが最終リリースになったことに怨嗟を抱いているくらいで、フランクがデフ・ジャム作品を契約終了とともにすべて買い取ったことにも「恥を知れ」とさえフランクを攻撃している。

しかし、『Endless』を置き土産にしたことが恥を知れといわれるようなことだろうか。『Blonde』もすごいが、ぼくは『Endless』も素晴らしすぎて歴史的な作品になっていくと思う。特に『Endless』はその昔、ジョン・アーヴィングの小説『ホテル・ニューハンプシャー』を読んだ時のようなささくれ立ちまくった感動を彷彿とさせて、今のユース・カルチャーにとても必要な作品だと思った。それなのに内容を無視したリリース形態のみにこだわった論議をぶちあげて『Endless』を貶めないでほしいと思った。(高見展)
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