快進撃が止まらない!ブルーノ・マーズの最新作『24K・マジック』にほとばしる至高のファンク愛

快進撃が止まらない!ブルーノ・マーズの最新作『24K・マジック』にほとばしる至高のファンク愛

ぶっとびのファンク・チューン"24K Magic"を先行シングルとしてリリースし、その行方が注目されていたブルーノ・マーズのサード・アルバム『24K・マジック』だが、なんとそのままファンクに満ちた内容のアルバムをたたきつけてくることになった。もはやマルーン5のアダム・レヴィーン越えも果たしたともいわれ、ポップ・ロックの申し子とも称されていたブルーノのこの突然のファンク愛はどういうことなのか。これを読み解くのもまたこのアルバムを堪能するうえでの無上の喜びともなる。

もともとブルーノは楽曲中のアレンジやライブ・パフォーマンスなど要所要所で自身のR&B愛を強烈に表明してきてはいたし、それをあからさまに表出させたのはマーク・ロンソンとの共演になった"Uptown Funk"でのことだった。今回の新作は本当はずっと好きだったファンクへの情熱を爆発させる内容になっていて、それが堪らないカタルシスとなっているわけだが、では、なぜブルーノはこれまであからさまなR&Bやソウル、ファンクへの傾倒を禁じ手にしてきたのか。それはそれを無邪気にやってしまうとひとたまりもなく弾かれて消されてしまうからだ。

ハワイという超マイナー・ローカル州出身で、白人でもアフリカ系でもなく、プエルトリコ/ユダヤ/フィリピンのミックスとなったら、なんでこんなのやってるのという疑問に付されて終わってしまうからだ。だからこそ、ブルーノはほかのアーティストのプロデュースではどれだけR&Bやヒップホップに通じていることを強味にしてきたとしても、自分の作品についてはポップ・ロックを頑なに打ち出すことでまず自分の作曲とパフォーマンスのスキルを知ってもらうことに徹してきたのだ。ある時期、カニエ・ウェストやタイラー・ザ・クリエイターが同様にブルーノのことをディスってその挙句、こんなに才能のあるやつだとわかっていなかったと謝罪表明を同様にすることになったのも、そんなブルーノの世渡りが生んだ災いだったのかもしれない。

というわけで、これまでの禁じ手解放アルバムとなったこのファンク・アルバムはまさにブルーノ個人のルネッサンス・アルバムとなるわけだが、アルバムとして聴くと"24K Magic"のすごさがなおさら浮かび上がってきたりもする。というのも、この曲はまずザップをインスピレーションとしたファンクだということが圧倒的な前提としてある。ブルーノはあくまでもドクター・ドレーとトゥパックの"California Love"経由でこういう音を知ったというオマージュをここで捧げているわけで、ヴォコーダー(オートチューンではない)・ヴォーカルなどさまざまな要素が詰め込まれたこの曲で一番重要なものは実はブルーノのラップなのだ。だからこそ、この曲はノスタルジックでもあり、なぜか妙に新しくもあるのだ。

この趣向は2曲目"Chunky"でさらに強くなっていて、どういうことかというと、ブルーノはここでヴォーカルしか披露していないのに、このシンセ・ファンクは80年代的というより妙に90年代的にも聴こえてこれが独特なモダンさとポップさに通じているのだ。それはまた3曲目のもろジェイムス・ブラウン的なファンク・ビートを聴かせる"Perm"についても同じで、要するにブルーノはあらかじめヒップホップを通じて知ったファンクのファンクネスというものをここで提示していて、それがこの作品の新しさの要因となっているのだ。そしてそれはまた、90年代へのブルーノなりのオマージュなのだ。いずれにしても、"Versace On The Floor"がマイケル・ジャクソンのバラード世界を見事に再現するものであると同時に、"Finesse"が超ニュー・ジャック・スウィングなビートとして出来上がっていることなどはどれもそのままブルーノの90年代愛であって、それがこのアルバムのファンク愛の核心となっているのだ。

折しもブルーノは新作リリース後、アメリカのニュース番組の取材でかつてミュージシャンだった父親と自分が一時期生活に困って不法占拠していた閉鎖されたハワイの観光施設を再訪している。現在の建物にはもう屋根もなく、植物が繁茂しているが、ブルーノは番組中、当時はもちろん屋根とかいろいろあったんだよと説明しているが、トイレがない建物に住んでいたこともあったとも明かす。

ファンクとはどんなネガティヴィティもポジティヴへと変えていこうとする意志を持った音楽だ。きっとブルーノとしては自分は誰よりもそんなファンクがわかっていると自負していたと思うが、ブルーノがファンクを鳴らすには越えていかなければならないハードルがとても多かった。しかし、それを今こうやって鳴らしたブルーノのファンクは、いまだかつてなく普遍的なファンクとなっているのではないかと感銘を受けた。(高見展)
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