文=大鷹俊一
《Everybody Start Your Engine!!》
そんな掛け声が響きわたるレッド・ホット・チリ・ペッパーズ始動のニュースだ。昨年10月、架空TVプログラムのニュース・キャスターに扮して、ヨーロッパに始まり北米を回るワールド・ツアーが告知され、この2月4日には、ニュー・アルバム『アンリミテッド・ラヴ』の4月1日リリース、それに先立つ先行シングル“ブラック・サマー”がストリーミング・リリース、さらにMVも発表された。
その曲は抑制されたメランコリックなギターのイントロに始まり、黒い夏に覆われる鬱々とした気分がアンソニーによって歌い出され、1分ほどするとバンド全体が雄大に動き出す流れは、ファンのすべてが待ち望んでいた空気に満ち満ちている。〈ジョン・フルシアンテ復帰の報があったのはいつだっけ〉、〈えっ! リック・ルービン、シャングリラ・スタジオ〉、〈100曲持ってきたらしい〉等々、あらゆるニュースに一喜一憂したのが、この一曲ですべて溶解していく。
聴いてすぐに思ったのは、過剰なアピールや、ことさらにビッグな姿を強調するのじゃなく、逆に奥底にある強烈なパワーや磁場をじっくり感じさせることによって、バンド自身とファンが共有する渇望感や、次のステップへの壮大な期待値を伝えている点だ。それがレッチリとして置かれている重さでもあり、今動き出す意味にも通じている。
誰もが、溜まりに溜まった音楽やライブへのフラストレーションを一気にぶち破って爆発的な疾走を始めたい思いであるからこそ、焦って爆走だけするのじゃなく、現実を踏まえて進もう、というメッセージにも思えてくる。
19年から20年にかけてオーストラリアを襲った絶望的な森林火災(ポルトガル全土の面積を上回るほどの被害だという)をテーマに、オーストラリア出身のフリーが中心となって複雑な思いを込めたナンバーはアルバムのオープナーであり、先行リリースの大役を担わされた。火災の背景には深刻な環境汚染問題があり、単にオーストラリアだけの話ではなく、地球の未来だとの視点は重い。(以下、本誌記事へ続く)
レッド・ホット・チリ・ペッパーズの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。