レッチリ、フリーの自伝『Acid for the Children』出版記念イベントに行った。ヒレルの死に涙し、アンソニーの自伝は怖くて読めないと語る

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レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーが自伝『Acid for the Children』を発売し、その出版記念イベントを各都市で行なっている。発売日の11月5日にはNYブルックリンのパワー・ハウス・アリーナという本屋さんでイベントを開催していたので行ってきた。

本を書くのは初めてだったため、「人生でこんなに自分をさらけ出したことはなかったし、こんなにか弱く感じたこともなかった。だからすごく怖かった」と語ったフリー。

「レッチリにいれば、バンドや俺が何をしても、例えば空港にいたり、どこにいたりしても、『股間にソックスしてたバンドの奴だ!』と声をかけられる(笑)。それを超えるインパクトを与えることってないんだ。それも分かるし、笑えるし、ものすごい開放感を味わって俺たち自身が楽しんだからいいんだけど、でもその小さな出来事が俺の一生を定義している(笑)。でもこの本で書いているのは、俺の文学への愛だったり、文字に書かれたものが好きであるということ。シンプルな物語にどれだけ心を動かされてきたのかということ。それは俺にとってすごく大事なことだった。そしてここにはロック・バンドとしては表現するのが難しかったことが書かれている。もちろん演奏する時は、俺の全感情をそこで表現しているつもりだ。でもこの本を読んで、俺に対する見方が変わるかもしれない。俺のことをさらに深く理解してくれて、ここから新たに、深く広いコミュニケーションが生まれるんじゃないかと思うんだ。そうなったら嬉しい」と語っていた。

この日はQ&Aが行なわれ、その後朗読もされたのだが、本を書く経験や、過去のことを思い出して、フリーが泣く場面が何度もあった。

とりわけ辛かったのは、最後に本の「悲しいところと幸せなところをひとつずつ読む」と言って、バンドの最初のギタリストだったヒレル・スロヴァクが亡くなったところを読んだ時。何度も泣いてしまっていた。
https://twitter.com/aaakkmm/status/1191912720540540928

ヒレルについては、「最初に本を書くと決めた時に、ヒレルの死については書きたくないと思っていた。自分の子供時代だけを書こうと思っていたから。ヒレルは俺の長女が生まれる直前の1988年に亡くなって、それからもうすごい長い時間が経つ。彼との友情はどの瞬間も本当に宝物のようだったけど、俺の中では彼を思う時に、もう生と死を切り離して考えることができなくなってしまったんだ。だから、書かずにいられなかった。この本の中で、彼については何度か書いているけど、ここでは彼が亡くなった日について書いている。その時のことを自分で可能な限り表現してみようとした。俺はこの時期、人生においても最も幸せな時期だったんだ」と言って、「1988年6月27日はーー」と読み始めたのだが、何度も泣いてしまった。

ちなみに、幸せなところでは、8歳の時に義理のお父さんが、仲間とジャズを家で弾くのを見てそれがいかに人生を変えたのかを書いた部分を読んでいた。

レッチリ、フリーの自伝『Acid for the Children』出版記念イベントに行った。ヒレルの死に涙し、アンソニーの自伝は怖くて読めないと語る - pic by Fleapic by Flea

ファンからの質問も鋭いものが多かった。非常に興味深い内容だったのが、私の隣に座っていた人が尋ねた「アンソニー・キーディスの自伝『スカー・ティッシュ』を以前読まなかったと言っていたけど、今回自分で(自伝を)書くにあたり読んだか」というナイスなもの。またアンソニーは、フリーの自伝を読むと思いますか?という質問も。

「えっと、まず俺はアンソニーとの関係性について語ることには、何の躊躇もないんだ。俺が唯一話したくないと思う時は、人がありもしない2人の関係性を勝手に作り上げてそれを押し付けてくる時。ゴシップを聞きたがる人たちがいるからね。

それでアンソニーの本は結局、読んでない。読みたいんだけど、読むのが怖かった。とりわけ、俺が自分の本を書くと決めてからはね。もし彼が書いたことに対して、俺がそうじゃなかったと思うことがあったらどうしようと思った。反発したくなかったから。

俺たちは、まったく違うタイプの人間なんだ。同じ部屋にいて、同じものを見ていても、まったく違う反応をする。例えば部屋に赤いボールが置いてあったとしたら、俺は『なんて小さなふわふわしたかわいいボールなんだ。抱きしめてみたい』って言うタイプだ。だけど、アンソニーは『このファッキング赤いボールは一体何だなんだ。このボールのせいで、この部屋が台無しだよ!』って怒鳴るタイプ」

●(笑)。

「とにかく俺たちは全然違うタイプの人間なんだ。それだけ違うから、俺たちの関係性はいつでもすごく緊迫したものだ。ただ、大前提として俺たちは心から愛し合っているのは間違いない。とにかく彼の本を読んで、俺がそうじゃないと反発するのが怖かったんだ。友達と人生を分かち合うってすごく強烈なことだからさ。つまり、この本で書いたことは、俺の考えであり、俺のテーブルで、俺のペンで、書いたものだ。それを読んだ人はそれぞれ自分達が思った通りのことを感じてくれていい。自分の人生を重ねながら読んでくれれば嬉しい。

アンソニーが俺の本を読んでくれるかは分からないなあ。俺と同じことを思っているかもしれないしね。読んだらすごく奇妙に思うと思う」

この日の司会者が、この本の中で書くのが一番難しかったところは?と訊くと、「アンソニーについて」と語っていた。

「バンド内のパートナーであるアンソニーとの関係性を書くのはすごく難しかった。理由は、俺たちの関係性が今もすごくアクティブだからだと思う。今も進化し続けていて、動き続けていて、変わり続けているからだと思う。彼に最初に会った時、俺は15歳で、会ってすぐに俺たちは惹かれあった。ハリウッドのフェアファックス高校で会ったんだけどね。会ってすぐお互い大好きになって、絶対離れることができない友達になった。

でも、いつでも喧嘩もしていた。それは今でもそうなんだ。だから、書くのがすごく難しかった。俺たちの関係性は、本当に強烈に惹かれ合うものであり、同時に正反対でもあり、最終的にはいつでも愛し合っていて、お互いを大事に思っているんだけど、それでも難しい。だから簡単には表現できなかった。俺なりにアンソニーとの関係を理解したのは、これは、自然の摂理なんだということ。俺は宗教的な人間ではないけど、でも自分なりに精神的な意味での俺個人の神がいて祈りを捧げてるんだ。だから俺とアンソニーの関係は、神からの授かりものだと思う。

2人は出会う運命だったんだ。俺たちが一緒のバンドにいるからという意味だけではなくて、この世界が、2人が出会うように仕向けてくれた。だから、お互いがお互いの必要な部分を持っているんだ」

レッチリ、フリーの自伝『Acid for the Children』出版記念イベントに行った。ヒレルの死に涙し、アンソニーの自伝は怖くて読めないと語る - pic by Akemi Nakamurapic by Akemi Nakamura

また、『Acid for the Children』というタイトルにした理由は?という質問にもこう答えている。

「いくつかあるけど、まず言葉の響きが好きだった。詩的だし、少し変だし、それから自分の子供時代を象徴している。世界中にあるドラッグはすべて試したからね。11歳の時ハイになって、今57歳なんだけど、30歳になるまで、ハイになれるものなら何でもやった。つまり、それから立ち直るのに、27年かかっているというわけ。

ドラッグは俺にとってすごく悪いものだったし、人にダメージを与えると思うけど、でも正直言って子供の頃は、俺を助けてくれた。自分の無意識にアクセスできた。俺は毎日怒っていたし、不安だったし、怖がっていたけど、でもドラッグのおかげで、現実世界では直面できない自分の内面にアクセスする事ができた。それがタイトルにした理由のひとつ。

それから俺の80年代の友達でToo Free Stoogesっていうバンドがいて、彼らはすごくワイルドで、ヒステリカルで、最高のバンドだからいつもつるんでいたんだ。笑って踊ってクレイジーなことを一緒にしていた。彼らの曲で“Acid for the Children” って曲があった。だから、彼らへの愛も込めて付けたんだ。弁護士からは、『Acid for the Children』ってタイトルにだけはしないでくれ、って言われたけどね。お願いだから、って。だけど、俺にはどうしてもしっくり来たんだ」

なんと偶然ジョン・フルシアンテがToo Free Stoogesに参加している映像があった。
https://youtu.be/8e5_palemu8

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フリーの本はものすごく面白くて、リズム感があるので、速攻で読み終わってしまったのだけど、笑えるところもあれば、泣けるところもたくさんある。

個人的に最も悲しかったのは、お母さんが自分に愛情を示した記憶がないと書いていたこと。「母から愛を得ることを考えたことがない。愛を受けたことは一度もなかったから、それを期待することもなかったんだ」。お父さんは、非常に規則正しく生きるタイプの人で、それをフリーは窮屈に感じていたのだけど、でも両親がある日突然離婚する。そしてすぐにお母さんと子供達は、義理の父となる人と住み始めるのだ。そこで、フリーとお姉さんに何かしらの説明があったわけでもなく、一瞬で生活がひっくり返る。「俺はすごく傷ついたし、何かしらの指導や、癒しが必要だった。だけどその時は子供でそれも分かっていなかった」と。

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義理の父は、ジャズ・ミュージシャンだったため、そこで生の音楽というものを体験し、それがフリーの人生を変えるわけだが、でも彼はジャンキーで暴力的だった。フリーには、親的な存在がつまりいなかったのだ。だから、この日彼も言っていたけど、「俺は子供の頃常にモラルの基準を探していた。それがなかったんだ。俺の人生にはそれを示してくれる人がいなかった。だけど、子供の頃は、本がそれを教えてくれた。ただ、ゴールを見つけるのは、ものすごく長い時間がかかった。でも俺は見つけたんだ。それが俺に影響を与えたし、助けてくれた」そして、彼を形成した、影響を与えた本なども紹介された。彼の本の中にも、影響を与えた本が紹介されている。

たくさんありすぎて書けないと言っているけど、その中からいくつか。

『The Master and Margarita』 Mikhail Bulgakov
『Of Human Bondage』 W. Somerset Maugham
『Jane Eyre』 Charlotte Bronte
『The God of Small Things』 Arundhati Roy
『Slaughterhouse-Five』 Kurt Vonnegut Jr.
『The Slave』 Isaac Bashevis Singer
『Against Our Will: Men, Women and Rape』 Susan Brownmiller
『Jazz』 Toni Morrison
『Coming Through Slaughter』 Michael Ondaatje
『True History of the Kelly Gang』 Peter Carey

本の中では、繰り返し聴くアルバムや、人生を変えたライブ、成長させてくれた映画などのリストが挙げられている。本に登場する彼の友達の多くはすでに亡くなっていたり、刑務所に入っていたりする。そことすれすれの場所にいながら、本当に音楽や映画、本があったおかげで、彼は生き延びたんだなあと実感できる。

当初は、『カリフォルニケイション』までを書いたそうだが、子供時代についても書くことに決めたそうで、フリーの子供時代から、レッチリがレッチリとなる前夜までが描かれている。つまりアンソニーが、グランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴを観てぶっ飛び、自分にもボーカルできるかもと思った瞬間から、"Out in L.A."までを書いたところまで。その物語は、悲しく、しかし想像通りかっ飛んでいて、冒険に満ち、笑えて、フリーがなぜ今のフリーになったのかが深く理解できる感動的な作品だ。

「子供時代に討たれ、自分に苦痛が残ったからと言って、それを永遠に続ける必要はない。自分の傷を偉大なる思いやり、深い愛、そして理解の源にすればいい」。「より強く、優しくなって、そこから抜け出せるんだ」という物語なのだ。そして、子供の頃の彼にとってバンドは、家族を見つけるようなものだったのだなあと思った。

日本語訳が発売されるか分からないけど、機会があったら是非手に取って欲しい!!!

この日のイベントは1時間半もあり、その他面白い話を色々と聞けたので、これから発売するロッキング・オンのコレポンのページで紹介する予定です。

ちなみに、レッチリは現地時間2020年5月22日から24日までボストンで開催されるフェス「Boston Calling」でフー・ファイターズと並びヘッドライナーとして出演することが最近発表された。
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