アーケイド・ファイアがものすごい勢いで動き出した。まず、5年ぶり待望の新作にして、ナイジェル・ゴドリッチがプロデュースの『ウィ』を5月6日にリリースすると発表。しかもこの6枚目は、バンドのキャリアでも最短の約40分。新曲“ザ・ライトニング Ⅰ、Ⅱ”は、彼ららしさが大復活した感涙のアンセムだ。
発表とほぼ同時に、ニューオーリンズで2日間、NYでもたった600人キャパで4日間もサプライズのライブを行い、売り上げは全てウクライナのために寄付された。NYのライブの3月18日と3月21日の最終日に行ったのだけど、彼らは演奏が終わるとステージからそのままストリートに飛び出し、NYの地下鉄にまで入って演奏。バンドの帰還を高らかに世に轟かせた。
アルバムのA面は“I (アイ)”(Isolation=孤独)で、B面は“WE(ウィ)”(再び繋がり合うことの喜び)がテーマ。“アイ”から“ウィ”への旅路が描かれている。“ザ・ライトニング Ⅰ”は、ウィン・バトラーがアコギをかき鳴らして堂々と始まり、ピアノが入った瞬間に彼ららしい高揚感がもたらされる。サビでは、《僕を諦めないで、君を絶対に諦めたりしないから》と繰り返され胸が一杯になる。MVではそこから強風に立ち向かいながら前に走る正にアーケイド・ファイアな内容になっているのだ。
ウィン曰く、これは「エルパソにある作りかけの国境の壁の影が差すメキシコとの国境線沿いでレコーディングした曲」とのこと。しかも米国内がコロナのピークを迎えていた最中に、エルパソでトランプが大統領選で負けた瞬間を迎えたことや、ハイチの移民に国境警備隊が馬から鞭を振るったことなどがインスピレーションになっている。「世の中が最悪ならそのど真ん中に立ってやれ」と思ったそうだ。
ライブでも、「世界はちっとも良くなっていかない。でも僕らなら乗り越えられるはずだ」と何度も言っていた。この曲では《時に勝つけど、時に負ける》と歌っていて、彼らが今回最強になって帰ってきた理由はそこにあると思う。つまり、どんなに頑張っても負けることもあると認識したこと。
だからこそ、いつだって全力で立ち向かわなくてはいけない。「諦めなければ、絶対に辿り着く」と信じているから。ウィンは「稲妻の光は時に僕らに道を示し、空を照らし、全てを焼き尽くす。でも、そこから再出発できる」と語る。真っ暗闇の世界で再び戦うアーケイド・ファイアが、稲妻を掲げて帰ってきた。 (中村明美)
アーケード・ファイアの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。