USインディロック界の良心=ザ・ナショナルが、4月リリースの9th『ファースト・トゥー・ページズ・オブ・フランケンシュタイン』で、いよいよ20年代をスタートさせる。
結成から20年の節目を飾った前作は映画作家マイク・ミルズとのコラボを軸とする「シネアルバム」という一種の変化球的だったが、コロナ禍を経て再会した5人はバンドの本懐に戻った。80〜90年代オルタナティブロック、フォーク、現代音楽、エレクトロニカ等、これまで積み重ねてきた影響/経験値と魅力とを集大成した上で現在地点から照射する、王道な成熟を聴かせる帰還作だ。
ザ・ナショナル作品では恒例のお楽しみ=ゲスト陣で言えば、スフィアン・スティーヴンス、フィービー・ブリジャーズ、そしてテイラー・スウィフトと、縁の深い新旧の仲間が声のカメオで友情出演しているのが目につく。本作向けの資料によれば、制作時にボーカルのマット・バーニンガーは作曲面で深刻なスランプに陥ったそうで、なるほど収録曲の歌詞の多くは、彼の様々な葛藤/心痛/逡巡を伝えてくる。昨年夏に発表されたボン・イヴェールとのコラボ“ウィアード・グッドバイズ”も痛切な哀感に胸の詰まる1曲だったが、おそらくパンデミックの影によって、彼の心の中の闇は増大したのではないか――その重圧を分け合うのに、彼は他のシンガーたちの肩を必要としていたのかもしれない。
先行公開されたシングル“トロピック・モーニング・ニュース”は、スタジオ録音時のフラジャイルさと現在のライブ音源での彼のパワフルな歌声の差をよく表しているし、ディープに自伝的な“ニュー・オーダー・ティーシャツ”も含め、自らの弱さをオープンに受け入れつつ、デリケートな表現へ昇華させることが、本作のバランスと奥行きのある美しさにつながったように思う。
バンドの主推進力であるアーロン・デスナーは、テイラーの『フォークロア』&『エヴァーモア』に続き、エド・シーランの新作『−(サブトラクト)』でも共作/プロデュースを担当と好調だし、栄えあるマディソン・スクエア・ガーデン初公演も今夏に予定されていて、ザ・ナショナルは無事に暗雲を振り切ったようだ。だが、その前に彼らの潜った魂の旅路と言える本作に、真摯に向き合おうと思う。 (坂本麻里子)
ザ・ナショナルの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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