心のどこかで覚悟しながらも、回復を信じて祈っていた。昨年12月に配信ライブのピアノ演奏に震えた時も、最新作『12』で彼の心象スケッチに触れた時も、3月に神宮外苑再開発見直しを求める手紙を小池都知事や事業者に送ったニュースが報じられた時も。その後、世界中が同じ思いであったことを、海外アーティストが発した数多くの追悼メッセージで私たちは知った。失われたもののあまりの大きさとともに。
坂本龍一は、アカデミックな評価だけでなく、万人のためのポップミュージックを革新し続けたピュアな理想主義者だった。と同時に、フィジカルに現実と向き合う行動者でもあった。先鋭的な電子音楽から、もう聴くことができなくなったルネッサンス期の古典まで、時空を超えた軽やかな発想と普遍的な美しいメロディで、音楽には人間が歴史のなかで生み出した分断を埋める可能性があることを教えてくれた。
初めて手掛けた映画音楽『戦場のメリークリスマス』は、西洋から見ても東洋から見ても「どこでもないどこか」「いつでもない時間」をコンセプトに作られたという。メインテーマを作曲中、彼は何度もぽろぽろと泣いたそうだ。「自分の中にネイティブなものは何もない」と語り、クラシックの出自を持ちながら輸入された西洋音楽に懐疑的だった彼のエモーショナルの根源はどこにあるのだろうか? 坂本龍一という巨大すぎる才能を読み解く手がかりとして、その本質を探る2本のインタビューを再掲載する。 (井上貴子)
坂本龍一の追悼特集は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
Instagramはじめました!フォロー&いいね、お待ちしております。