フォンテインズD.C.のグリアン・チャッテン、ソロデビュー! 大注目の1stに迫る

フォンテインズD.C.のグリアン・チャッテン、ソロデビュー!  大注目の1stに迫る - rockin'on 2023年8月号 中面rockin'on 2023年8月号 中面

今年2月、フォンテインズD.C.の初来日時のインタビューでグリアン・チャッテン(Vo)は「フォンテインズとしてはしばらくオフに入るけど、個人的には曲を作って歌うっていうことを続けていくつもり。まだ詳しいことは言えないんだけど、幾つかプロジェクトがあるんだよ」と言っていた。

なんとそれがソロデビューアルバム『ケイオス・フォー・ザ・フライ』であり、フォンテインズのワールドツアーの合間に本作を作っていたというのだから驚く。でも、「追い詰められた状態の時こそ音楽が必要」と彼も言うように、グリアンの場合はワーカホリックというよりも、音楽を作ること、歌うことはすなわち生きるということなのだろう。

彼が自分だけの表現と向き合う際に最も重要視したのは、ソングライティングの基本に立ち返ることだったというのも納得だ。ギターのシンプルな爪弾きや鼻歌で容易に再現可能なメロディのシンプルな美しさは『ケイオス・フォー・ザ・フライ』において際立っており、彼の心と体によりダイレクトに直結した表現として音楽が鳴っている。

ただし、シンプルではあるが素っ気ないローキーではなく、相棒ダン・キャリーによるプロダクションによって生み出された、控えめかつ精緻なオーケストレーションや幽玄のリバーブ、そしてフォークロアの豊かなテクスチュアによって高められたグリアンの歌は、贅肉を削ぎ落としたシャープネスと同時に、未だかつてない成熟をも感じる仕上がりになっているのだ。そんなサウンドに相応しく、歌詞にもさらに磨きがかかっている。

ダブリンの街を地べたから見上げるように歌った『ドグレル』や、パンデミックをきっかけに定点観測的描写をテーマにした曲が増えた『スキンティ・フィア』と比較すると、本作の彼の揺れ動く眼差し、場所と時間を気まぐれに放浪しながら紡がれるポエトリーは特筆すべき変化で、私小説的なリアリティと映画的な幻想を兼ね備えたものに進化している。2020年代を代表するバンドのシンガーにしてフロントマン、そして稀有な詩人でもある人の、まさに理想的なソロの在り方だと思う。 (粉川しの)



グリアン・チャッテンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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