キム・ゴードン、3月に新作リリース ―― ひりついた氷点下のオルタナボイス、再び!

rockin'on 2024年3月号 中面

あの唯一無二の氷点下の声が戻ってくる――「オルタナのゴッドマザー」ことキム・ゴードンが、5年ぶりのセカンドを完成させた。3月のリリースに伴い久々のUSツアーも決定し、アート制作から執筆活動etc.まで、古希を超えてもたゆまぬその創作力にはひたすら脱帽だ。

新作『ザ・コレクティブ』は11曲入り。プロデュースは前作に引き続きジャスティン・ライゼン、そして彼の片腕的ドラマー兼エンジニアであるアンソニー・ポール・ロペスが当たっている。スカイ・フェレイラチャーリーXCXを始めとする新世代ポップ仕事を経て、イヴ・トゥモアやヤー・ヤー・ヤーズらゴスパンク勢と組んできたジャスティン。昨年もリル・ヨッティにジョン・ケイルと素晴らしい作品に貢献した絶好調の鬼才プロデューサーなだけに、エッジーでスリリングなコラボになりそうだ。

現時点で先行公開された“バイ・バイ”はその期待を裏切らず、イルにひしゃげたトラップビートに乗り、キムが旅行前の備忘録&荷造りリストを読み上げていく。歯磨き粉、ジーンズ、シャンプー、スニーカー……ごくありふれたアイテムの数々も、彼女のクールにドスの利いた語り口で吐かれると何やら剣呑な趣きを漂わせるのだから不思議だ。俳句とすら言えるミニマルな歌詞だが、楽曲そのものはノイジー&カオティックに終わりを告げる。かっこよ過ぎる!(ちなみにこの曲のMVは、前作収録の“ハングリー・ベイビー”と同様にキムの娘ココ・ゴードン・ムーアが主演、監督はフリーの長女クララ・バルザリーが担当。オルタナ好きはそれだけでも必見です)。

本作向けのPR文で、彼女は「このレコードで、今、自分の周囲に感じる完全なる狂気を探ってみたかった」とし、事実の通用しないポストトゥルース時代とパラノイア、そしてその混沌からの避難所としてひたすらスムーズさ&安易さを求める風潮への違和感を表明している。ジャケットに写るスマートフォンは、その象徴ではないかと思う。

基本的に政治/社会と自らのアートとを切り離してきた彼女だが、その凍土な表層に亀裂が走ったら?――どんな音像に出会えるのか、待ち遠しくて仕方ない。(坂本麻里子)



キム・ゴードンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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