コナン・グレイ、確変! 約2年ぶりのニューアルバム『ファウンド・ヘヴン』は、コナンの目覚めを、解き放たれた精神の自由をビビッドに感じる一作となった。歌声は未だかつてなく伸びやかで、サウンドもまた未だかつてなくパワフル。「Z世代のサッドプリンス」と称された彼の繊細なウィスパーボイスが、10代の悩みや戸惑いをそっと告白するかのようだったベッドルームポップが、本作ではその殻を破り、躊躇なく駆け出している。
3作目にして訪れたこの覚醒には、「誰とも恋愛関係を持ったことがなかった」というコナンが初めての交際を経験し、破局に終わったことが大きく作用しているという。深く傷つきながらもついにリアルな愛の手触りを知ったことは、ソングライターとしての彼にポジティブな影響をもたらしたのは想像に難くない。
《(失恋して)涙が枯れるほど泣いたけれど、終わらない歌のようにふたりの物語は続いていく》と歌う先行シングル“ネヴァー・エンディング・ソング”のように、コナンのストーリーテリングはかつての自己完結型から一歩踏み出し、感情の迸りを恐れぬ強さを手に入れ、哀しみや喜びをデュアルに表現しうるものへと成長を遂げているのだ。
マックス・マーティンからグレッグ・カースティンまで、錚々たる顔ぶれがバックアップした『ファウンド・ヘヴン』は、サウンド面でもまた思いっきり醒めており、その中核を担うのが80sサウンドだ。ソフト・セルやデペッシュ・モードを彷彿させるエレポップのみならず、ケニー・ロギンスやボニー・タイラーのようなポップロック、U2やスプリングスティーンを引き合いに出して語りたくなるアンセムまで、これほど包括的に80s感覚をコラージュした作品も珍しいが、全開にエモーショナルな今のコナンには、これくらいアッパーな音が相応しい。
かつて自分を苦しめた父親に《ほら、あなたが勝者だよ》と皮肉っぽく歌う“ウィナー”は、本作のハイライトだろう。多重コーラスや華麗なギターソロを特盛りにしたこのクイーンばりのエピックチューンは、本当の勝者は誰かを伝えているからだ。 (粉川しの)
コナン・グレイの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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