現在発売中のロッキング・オン5月号では、エイドリアン・レンカー(ビッグ・シーフ)のソロ新作ロングレビューを掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。
文=木津毅
アルバムタイトルの「輝かしい未来(Bright Future)」という言葉は、歌詞のなかに登場するわけではない。だが、作品を聴き終えると、これが輝かしい未来を希求する歌を集めたものであることが伝わってくる。エイドリアン・レンカーの新作ソロ『ブライト・フューチャー』はそんな風に、聴き手の内側をそっと温めるような1枚だ。
いまやアメリカのインディロックを代表するバンドとなったビッグ・シーフのフロントパーソンであるエイドリアンは、バンド内で、あるいはリスナーと親密な関係を結ぶことで表現を深めてきたSSWだ。ビッグ・シーフでは彼女の想いを共同体としてのバンドで分かち合うことが大切にされるが、一方でコンスタントに発表してきたソロ作では、個人の内省を音と言葉で追求している。穏やかなフォークミュージックのなかで綴られるのは常に、彼女のパーソナルな心の動きやイマジネーションだ。
ジョニ・ミッチェルやニール・ヤングに強く影響を受けたという彼女のソングライティングはクラシックなもので、またアレンジメントも分化していないものとしてのフォーク/カントリー、すなわちアメリカーナをベースとしたものだが、サウンドプロダクションにおいてはモダンな音響感覚を備えている。ビッグ・シーフではそれが、オルタナティブからカントリーまでカバーする多彩なロックサウンドで表れるのに対し、ソロではより控えめなフォークで示される。『ブライト・フューチャー』はその個人的な探究の続きにある作品で、すでに6枚目となる。
ただし、エイドリアンが20年に発表した2枚のアルバム、すなわち4枚目と5枚目はふたつでひとつの作品だったことが重要だ。シンプルに『ソングス』、『インストゥルメンタルズ』とタイトルがつけられたそれらの作品は、歌のアルバムと演奏のみのアルバムに分けられており、彼女のミュージシャンとしての二面性を端的に示すものだったと言えるだろう。そこで連想するのが、ビッグ・シーフが双子作であると表明していた『ユー・エフ・オー・エフ』(19年)と『トゥー・ハンズ』(19年)のことだ。(以下、本誌記事へ続く)
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