曲が始まる直前、針一本落としても響くような静寂に包まれていた会場は、曲が終わった瞬間、溜息と感嘆の入り混じった温かな拍手で包まれる。テンションとエモーションが交互に浮上するのを何度も繰り返すうちに、ライブを観に来ていたはずの私たちは、いつしかパフォーマンスと一体化し、シンガーのブレスに呼応し、哀しみや恐れ、諦念を乗せた歌声と直に繋がっていく。
そして終演。客電が灯され、ファンの大歓声に手を振って応える嬉しそうな彼女の姿を目の当たりにして、自分と彼女がパッと切り離されたことに気づいた。確認すると90分くらい経っていたが、体感としてはあっという間だった。それだけ濃密な時間を私は彼女と分け合って、いや、溶け合っていたのだろう。ベス・ギボンズの待望の初単独来日公演は、そんな一期一会のひとときを生み出す至高のパフォーマンスとなった。
24年のフジロックから1年余りの再来日だが、日本のファンが室内会場で凝縮されたベス・ギボンズの歌声を体感できたのは今回が初めて。ソロ作『ライヴス・アウトグロウン』のナンバーを中心に、ポーティスヘッドも2曲やる充実のセットだった。
ベスのソロはポーティスよりずっとアコースティックだが、アコースティックと言ってもネオクラシカルからフォークトロニカ、ジャズ、生音が細かく不規則に分解され、最早インダストリアルに聞こえるアンビエントまで幅広い。
都内屈指の良音響を誇るすみだトリフォニーホールは、繊細な音は繊細なまま、ベスの声の抑揚の危うさは危ういまま、しかしラウドな演奏は思いっきり増幅し、しかもそれらが濁りなく響く会場で、彼女の音楽を堪能する上でまさに完璧なシチュエーションだったと思う。
ついに生で聴けた“グローリー・ボックス”のアシッドなビートに痺れ、“道”ではホールの高い天井から雫となって零れ落ちるようなベスの歌声に陶然となる、ポーティスヘッドの伝説を回収するアンコールも素晴らしかった。またすぐ観たい!というよりも、この余韻を少しでも長く噛み締めていたい、何年かに一度のご褒美のような一夜だった。(粉川しの)
ベス・ギボンズの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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