2018年下半期最高のポップ・アルバム、トロイ・シヴァンの『ブルーム』をMVと共に徹底解説!

2018年下半期最高のポップ・アルバム、トロイ・シヴァンの『ブルーム』をMVと共に徹底解説!

トロイ・シヴァンの3年ぶりのニュー・アルバム、『ブルーム』がいよいよ8月31日にリリースされる。この作品は、間違いなく2018年下半期を代表する必聴のポップ・アルバムとなるはずだ。本作は「開花(Bloom)」なるタイトルに相応しく、トロイのポップ・スターとしての才能がまさに開花した作品であり、「クイア・ポップ」と呼ばれてきたものの新時代の幕開けを告げる一枚でもあるからだ。

まずはそんな『ブルーム』から、アリアナ・グランデとのコラボで既に大ヒット中の“Dance To This”のミュージック・ビデオを。


トロイ・シヴァンは南アフリカ生まれ、オーストラリア育ちの現在23歳。彼は極めて2010年代的なキャリアを刻んできたアーティストだと言える。まずは子役としてデビューし、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(ローガンの子供時代を演じてました)等に出演する傍ら、10代半ばでユーチューバーとしての活動を開始、音楽活動を本格化させる前の段階で早くも500万人近いチャンネル登録者を獲得し、一躍ソーシャル・メディアのセレブリティに。

19歳で初のEP『TRXYE』をリリースし、20歳となった2015年にデビュー・フル・アルバム『ブルー・ネイバーフッド』を発表。翌2016年にはフジロックで初来日を果たしている。

『ブルー・ネイバーフッド』時代の彼の最大アンセムと言えばこの“YOUTH”。


ゼッドの“Paper Cut”へのフィーチャリングや、マーティン・ギャリックスの“There For You”のコラボでも話題に。


さらにはご覧の通りの美貌とあってモデル活動も行っており、ハイ・メゾンのランウェイを歩いたり、ヴァレンティノのキャンペーン・モデルに起用されたりと引っ張りだこだ。


俳優であり、ユーチューバーであり、モデルであり、そしてミュージシャンでもある。トロイ・シヴァンはそんな多チャンネル型のアーティストだ。そして18歳の時にユーチューブを介して世界に向けて性的マイノリティである自身をカミングアウトしたように、あらゆるチャンネルが分け隔てなく彼自身の自己表現と直結している点で、極めて今っぽい才能だと言える。

そんなトロイにとって『ブルーム』とは、初めて100%の、いや、それ以上の確信を持って「これこそが自分」だと宣言できた作品なのではないだろうか。悩み多き思春期の揺らぎや曖昧が、そのままメロウでブルーなエレクトロサウンドの淡い輪郭に直結していた『ブルー・ネイバーフッド』から一転、本作は目が醒めるようなクリアな輪郭と、表現者としてのトロイの芯が通った力強い躍動を兼ね備えた最高のポップ・ソング集であり、同時に彼自身の全てを曝け出した赤裸々な歌詞が躍る、メッセージ・アルバムでもあるからだ。

トロイの覚醒を真っ先に伝えたのが先行シングルの“My! My! My!”と、そのミュージック・ビデオだった。「もう愛に背を向けるのはやめよう」と歌われるこの曲は、彼のまさに自己解放宣言であり、ティーンからも絶大な人気を誇る彼のようなヤング・スターが、思いっきりセクシーな描写の数々(「熱を帯びる 短く刈った髪」「その口元に舌を滑り込ませて」「ゆっくり、いや、もっと早く」)をためらいなく、挑発的に歌ったこの曲は、クイア・ポップをネクスト・レベルに引き上げるものとなった。

9月5日発売のロッキング・オンのインタビューでは、そのセンセーショナルな内容で話題を呼んだ“My! My! My!”のMVの撮影について「怖くて気が変になりそうだった」と言ってたトロイだけれど、ご覧の通り最高の仕上がり。


この“My! My! My!”のMVと、『ブルー・ネイバーフッド』期の彼の映像的代表作である所謂「ブルー・ネイバーフッド3部作」を比較すると、彼が『ブルーム』で遂げた飛躍がよりラディカルに実感できるのではないか。ノスタルジックでパステルな「3部作」のナラティブから、センセーショナルでグロッシーな“My! My! My!”へ。まさに覚醒と呼ぶに相応しい成長なのだ。


アッパーなエレクトロ・ポップから、シリアスでダークなダンス・チューン、さらには例えばこの“The Good Side”のようにトロイ史上初と言っていいアコースティック・ギター・チューンまで、『ブルーム』は様々な曲調がカラフルに咲き誇っているアルバムでもある。

“The Good Side”は個人的にイチオシのナンバーなのだが、「人生のいいとこ取りをしてごめん、世界を旅して回って分かち合いたい思い出もいっぱいあったのに、電話しなかったんだ」と別れた恋人に伝えるこの曲は、前作でブレイクし、世界中をツアーして回ったトロイ自身の経験談であるのは自明だ。彼のそんな失恋ソングのマナーは、例えばテイラー・スウィフトの一連のそれよりも、むしろロードの『メロドラマ』に通じる近さとナイーヴさがある。


『ブルー・ネイバーフッド』のジャック・アントノフに代わり、本作ではビッグネームとしてアリエル・リヒトシェイドが参加。ただし、『ブルーム』はトロイ・シヴァンを本格的にスターにするべく、やり手のブレーンをかき集めて売れ線のポップ・アルバムに仕上げた戦略的作品ではなく、トロイ自身が表現者しての自信と確信を深めた結果、彼がやりたいことを実現するために必要不可欠なメンバーがチョイスされた、あくまでトロイ・シヴァンをブレーンとした能動的ポップ・アルバムなのだ。

ちなみに本作で初参加のプロデューサーで注目すべきは、UKのエレクトロニック、ダンス系のプロデューサー兼DJのジャム・シティだ。彼が本作に持ち込んだベース・ミュージックのハードな感触は、前述の“The Good Side”の後半の転調やこの“Animal”で生かされている。


タイトル・トラックの“Bloom”は、本作でも飛び抜けてポップなエレクトロ・チューンだが、その共作者にカーディガンズのピーター・スヴェンソンの名前を見つけて納得だ。また、トロイが真っ赤なリップを見せつけるように身をくねらせて歌うこちらのビデオも、コントラヴァーシャルな議論を呼びつつも大ヒットを記録した。


イヤーズ&イヤーズやトロイもリスペクトするパフューム・ジーニアスなど、近年のポップ・シーンでは性的マイノリティをエンパワーメントするアーティストの活躍が目立つ。さらにはソフィーやキング・プリンセス、ブロックハンプトンのリーダーであるケヴィン・アブストラクトといった次世代のクイア・アーティストたちは、より軽やかに、当たり前に自分たちのペルソナを纏っている人たちだ。そしてトロイ・シヴァンは、この『ブルーム』によってそんなクイア・ポップの新感覚の先頭に立つアーティストになるはずだ。ポップ・ミュージックとは、マイノリティもマジョリティも関係ない、誰にとっても等しく自己を解放できる最高の場所であることを、トロイの『ブルーム』は伝えているからだ。 (粉川しの)



トロイ・シヴァンのロング・インタビューは、9月5日発売の『rockin'on』2018年10月号に掲載。詳細は後日発表となります。

『ブルーム』の詳細は以下。

rockinon.com洋楽ブログの最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする