ナイル・ロジャース&シックがリリースした26年ぶりの新作を聞いた! 完璧なシック・サウンドのようで、実はシックらしからぬサウンドに?
2018.10.04 19:40
なんと26年ぶりとなる新作『It's About Time』をリリースした、ナイル・ロジャース率いるシック。実はその26年前の『シック・イズム』もシックのすごさを見せつける素晴らしい作品だったが、その後、ヒップホップ誕生にとっても欠くべからざる要素となったベースラインを誇ったバーナード・エドワーズが来日公演後に急死。さらにドラムのトニー・トンプソンも他界し、ナイルがシックを率いてライブを展開することはあってもオリジナル・アルバムの実現性はなかなか考えにくいものになっていた。
さらにナイル自身もがんとの闘病を経験することになったが、2013年にダフト・パンクとのコラボレーションとなった“Get Lucky”などが大ヒットしたことで再評価の嵐を呼ぶことになり、同年のグラストンベリー・フェスでのシックとしてのステージなどは絶賛のあまりテレビ放送まで実現することに。その果てについに形となった純然な新作が今作『イッツ・アバウト・タイム』だが、どこまでも王道なシックとしてのアルバムに徹底しているところが素晴らしい。
実際、“Get Lucky”があそこまでの人気となったのもこのナイル・ロジャースのギターを軸にしたシックとしてのサウンドが今では新鮮だったからで、この音を下手にいじらないことがなによりも重要なことだった。
そうした意味で、オープナーの“Till the World FallsDown”は完璧すぎるほどのシック。ゲスト・ボーカルのコーシャにシックとしてのイメージ通りの歌を託し、さらにヴィック・メンザのラップがかったボーカルでコンテンポラリーなエッジを与えるという見事過ぎる仕上がりになっている。
基本的にどの曲についてもこのアプローチを貫いているのが大正解だが、レディー・ガガとの“I Want Your Love(愛してほしい)”などは往年のシックの代表曲のリメイクなので、こちらはかなり大胆なアレンジにもなっていて刺激的だ。
その一方で、80年代末から90年代にかけて一世を風靡したニュー・ジャック・スウィングを前面に打ち出した、シックらしからぬサウンドになっているのが“Sober”だ。なぜ今、ニュー・ジャック・スウィングなのか。それはおそらく現在では、まったくもって歴史的なビートになってしまったこの音を思い出させるか、あらためて紹介したいということなのだろう。アルバムの最後にはそのニュー・ジャック・スウィングを編み出したテディ・ライリーにプロデュースを託したバージョンも収録していて、その辺にプロデューサーとしての男気も感じて感慨深かった。(高見展)