昨年、プリンスの過去の作品や未発表音源の権利や扱いがすべて整理され、未発表だったピアノによる弾き語り音源『ピアノ&ア・マイクロフォン 1983』がリリースされたのがあまりにも嬉しかったのは記憶に新しい。
そして、整理後、1995年以降の作品はソニーからリリースされることになり、その初の再発としてリリースされたのが2004年から07年にかけて発表された『ミュージコロジー』、『3121』、そして『プラネット・アース~地球の神秘~』の名作群なのだ。
この連作、特に『ミュージコロジー』がリリースされた時にはプリンスがようやく帰ってきたと狂喜したものだったし、それは全世界のプリンス・ファンも同じだったはずで、事実、プリンスにとって久しぶりのヒット・アルバムとなったし、最終的にグラミー賞ではボーカル・パフォーマンスなど2部門で賞に輝くことにもなった。
とにかく衝撃的だったのはオープナーでタイトル曲の“Musicology”で、ジェイムス・ブラウンばりのレア・グルーヴ・サウンドにどこまでもファンキィなボーカルをぶちかましていくプリンスのパフォーマンスがあまりにもしびれるものだった。特にプリンスは10年近く、こうした激しい演奏をあまり披露してこなかったので、これはとてつもなく嬉しい復活劇だったのだ。
というのも、1996年の『イマンシペイション』以来、プリンスの新しいレコーディングは基本的にスピリチュアルな方向性を意識的に目指していて、どこまでも平穏な境地を映し出すようなサウンドが特徴的になっていたからだ。それはプリンス自身が『イマンシペイション』を境に活動環境を一新したことに伴うものだったし、さらに自身の信仰を新たにしたこととも深く関係していたのは確かなはずだ。
たとえば、1999年の『レイヴ・アン2・ザ・ジョイ・ファスタスティック』などは以前のプリンスの攻撃的な音楽性を打ち出したものだったが、基本的に1988年頃の音源を手直したもので、とっちらかった印象の方が強かった。それに対して『ミュージコロジー』は完全にこの時点でのプリンスの新曲群から成っていて、それもどこまでもかつてのプリンスのサウンドとスタイルに忠実なものだったことが画期的だったのだ。
では、プリンスはこの時、単純に昔に戻ったのかというと、そういうことではまったくなく、たとえば、このタイトル曲“Musicology”のあまりにもストレートで真面目なファンクへのオマージュを歌い上げる歌詞そのものがプリンス自身の新境地となっていたし、全体的に深みを増して、隙のまったくないパフォーマンスとサウンドを作り上げてきたところも、新機軸だったのだ。さらに、自分のファンが求めている音もこういうものだという新たな自覚に至ったような、確かなサウンドとして鳴っているところも素晴らしい。
この2年後にリリースされた『3121』もまた『ミュージコロジー』に勝ると劣らない内容と魅力を備えた作品で、ファンク、バラード、ソウル、ロックとどの楽曲においても完璧すぎるソングライティングとパフォーマンスをみせつけるその内容は、まさにプリンスの完全復活を告げるものだった。
特に“Black Sweat”などは80年代後半の全盛期を思わせる攻撃的なビートとサウンドがあまりにもたまらない名トラック。歌詞はどこまでも相手に対しての情熱的な愛をたぎらせる内容を歌っているが、その情熱が過剰なくらいにストレートに綴られていて、その過剰さがプリンスならではのエッジとして立ち上がってくるところが素晴らしいのだ。
そして2007年にリリースされた『プラネット・アース~』は前2作と比較すると、ロック・ナンバー、ポップ・ナンバー、バラードなどが多く揃った内容になっていて、ここでもプリンスのまったくの隙のなくなった曲作りとパフォーマンスがどこまでも堪能できる内容になっている。また、1995年以降の新しい心境が最もわかりやすいメッセージとして託されたアルバムにもなっていて、環境問題や戦争について巨視的に歌ってみせる“Planet Earth”などはその最たるものだ。
この時期に行われたツアーも軒並み大成功となっていて、ある意味で、プリンスがそのキャリアで最もミュージシャンとして充実と幸福を感じていたであろうと思わせる時期にもなっていたはずだ。言うまでもなく、その充実感を生み出したものがこの名作3枚だったのだ。(高見展)
プリンスの関連記事は現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。