今日の「ポップ」のスピード感

ドレイク『スコーピオン』
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ALBUM
ドレイク スコーピオン

スターダムの頂点へと上り詰め、狂騒に揉まれて疲弊することすらエンターテインメントに変える男=ドレイクのニュー・アルバム『スコーピオン』。プレイリストと位置づけられた前作『モア・ライフ』を凌ぐ全25トラックもの収録曲を擁するのは、恐らくセンセーショナルなチャート・アクションを見越してのことだろう。今春、ポスト・マローンの『ビアボングズ&ベントレーズ』は『モア・ライフ』が持っていたストリーミング再生記録を塗り替え、またビルボード・トップ100の20位圏内に9曲を送り込むという記録を打ち立てたが、7月14日付のチャートでは何とドレイクの作品がトップ100中27曲(ニュー・アルバムの全曲+客演2曲)、20位圏内に12曲というとんでもない数字を叩き出した。ここでは、一挙手一投足が大きな注目を集めるドレイクならではの、チャートと定額配信サービスの連動性を巧みに利用した戦略が窺える。その時折の話題性を最大限に引き出すための最適なリリース方法が採用されているというわけだ。ぶっちゃけて言えば、新作『スコーピオン』に25ものトラックが収録されたことの理由は、それ以外には見当たらない。

ドレイクの即時性に関して言えば、新作の直前に繰り広げられていたプシャ・Tとのビーフも挙げられるだろう。プシャが新作『デイトナ』収録の“インフレアド”で、以前からドレイクのゴーストライターと噂されてきたクエンティン・ミラーの名を出し攻撃したのだが、ドレイクは即座に新曲“Duppy Freestyle”を公開し応戦。《俺がアルバム・モードのときにけしかけてくるなよ。お前のレーベルの仲間(カニエのこと)にはできたとしても、お前はトップ5にさえいないんだからな》とやり返していた。さらにプシャは、新曲“The Story of Adidon”を発表し、ドレイクがあるポルノ女優と子供をもうけていたことを暴露。目に余る泥仕合の様相を呈していたため、遂にはカニエが2人を諌める形になった。

さて、新作『スコーピオン』では、そのドレイクに子供がいたという事実がひとつのトピックになる。マライア・キャリー“エモーションズ”のコーラスをサンプリングした“エモーションレス”の中で、ドレイクは《俺は世界に子供がいることを隠していたんじゃない。子供から世界を隠していたのさ》とラップしている。ドレイクほどの著名人でなくとも、今の時代に世間の好奇の視線や危険から子供を守りたいと考えるのはごく自然な発想と言えるだろう。実際、このドレイクの子供の話題そのものは、さして大きな騒ぎには至っていない。リスナーは、あくまでも新作の中の話題のひとつにしか過ぎない、と考えている人が大多数のようだ。

ここで興味深いのは、ドレイクのシーンにおける特殊な立ち位置である。ユーロ・ステップを踏むように飄々と身を躱しスター街道を突き進んでいるように見えるドレイクは、俳優上がりの私生活をすっぱ抜かれたところで、さして困るわけではない。それは彼の強みなのだが、裏を返せばストリート上がりのラッパーとしても、ポップ・スターとしても、うまく枠の中に収まることができず居場所がないということになる。民族・文化的ルーツや国籍においても、彼はアイデンティティの置き所に思い悩んできたはずだ。疎外感や孤独感込みの自我を物悲しい旋律へと落とし込み、フロウとして放ち続けてきた彼の独自性に対して、多くのリスナーは音楽的に評価し、シンパシーを寄せているのである。

プレイリスト『モア・ライフ』のバラエティ性と比較しても、新作『スコーピオン』はまさにドレイク節と言えるメランコリックなトーンが前面に押し出されている。マーヴィン・ゲイやボーイズⅡメンのサンプルを用いたソウルフルなトラックをはじめ、悩ましいグルーヴと歌声が織りなす“ピーク”や“フィネス”、先行曲の“アイム・アプセット”は鋭利なトラップ・チューンであるにもかかわらず、ハードワークの哀愁がべったりと張り付いている。ゲストにはジェイ・Zやタイ・ダラー・サイン、ニッキー・ミナージュフューチャー、ハイエイタス・カイヨーテのネイ・パームらが迎えられているが、驚くべき名前がクレジットされた“ドント・マター・トゥ・ミー(feat.マイケル・ジャクソン)”は、マイケルの未発表曲をサンプリングしているらしい。ドレイクらしさを保ちながらヒップホップ・クラシックを目指したかのような『スコーピオン』を決定づける一曲だ。終わりのない仕事と噂と色恋沙汰に翻弄され、エモーションを音と言葉に紡ぎながらも、さっと身を翻してリスナーに共感の毒針を打ち込む。どんな場所にも染まれないからこそ育まれたこの独自のヴァイブは、今後もシーンのてっぺんで、静かなる猛威を振るいそうだ。(小池宏和)



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ドレイク『スコーピオン』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」9月号に掲載中です。
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ドレイク スコーピオン - 『rockin'on』2018年9月号『rockin'on』2018年9月号
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