2度目のセルフ・カバー集、今回のテーマは?

スティング『マイ・ソングス』
発売中
ALBUM
スティング マイ・ソングス

2016年に13年ぶりのロック・アルバム『ニューヨーク9番街57丁目』をリリース、2017年には来日公演も行い、さらに昨年はシャギーとコラボしたレゲエ・コンセプト・アルバム『44/876』をリリースするなど、驚くほど精力的に活動を繰り広げてきた近年のスティングだが、今年も同じ勢いで作品を仕上げてきた。しかも本作は過去曲を単純にコンパイルしたベスト・アルバムではなく、ポリス及びソロの名曲を現在の彼が再レコーディングしたセルフ・カバー集だ。ちなみにスティングが今回のようなセルフ・カバー・ベストを作ったのは、2010年の『シンフォニシティ』に次いで2作目となる。

前回の『シンフォニシティ』が過去曲をオーケストラ・アレンジで再解釈した一種のコンセプト作だったのに対し、本作は曲ごとにラフなロック色を強めたり、大胆なエレクトロ・サウンドに転じてみせたりとバラバラなアレンジを試していて、特段の一貫性はない。例えば、“ブラン・ニュー・デイ”や“デザート・ローズ”といったソロ曲では積極的に打ち込みを試していて、カバーというよりもリミックスと呼ぶに相応しい仕上がりだし、翻って “シェイプ・オブ・マイ・ハート”や“フラジャイル”は、スティングのため息のような歌声とアコギの純度を高めたミニマルな仕上がりで、異様にクオリティの高いデモのようにも聞こえる。

いずれにしても、ソロ曲はそれぞれの曲の特性を生かしたセルフ・カバーになっていると思う。しかしその一方で、ポリスの楽曲に関してはどうにも原曲のオリジナリティがぼやけてしまっているのは否めない。例えば、軽やかなジャズ・グルーヴをまとった“孤独のメッセージ”にせよ、原曲のバックビートの即興性とアンビエンスを強調した“ウォーキング・オン・ザ・ムーン”にせよ、3ピースのロック・バンド、ポスト・パンク・バンドの枠を大きくはみ出したポリスの革新性の謎解きのような開放感はあるものの、その代償としてポリスの唯一無二の、あの張り詰めたトライアングルの緊張感が薄れてしまっている、とでも言うべきか。ただし、“ソー・ロンリー”に関しては『ニューヨーク9番街57丁目』で立ち返った豪放なロックンロールと『44/876』のピースフルなレゲエの両方のモードが注入された、今のスティングならではな無作為かつダイナミックな仕上がりで痛快だ。

なお、本作にはセルフ・カバーのスタジオ音源に加えてライブ音源も複数収録されていて、ライブ・ベストとしても聴きごたえあり。ボートラ収録の日本盤がお勧め。(粉川しの)



各視聴リンクはこちら

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

スティング マイ・ソングス - 『rockin'on』2019年7月号『rockin'on』2019年7月号
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする