90年代ストーンズの最高傑作である1997年発表の『ブリッジズ・トゥ・バビロン』に伴うツアーの終盤、1998年9月2日に行われたドイツ・ブレーメン公演を完全収録した映像作品。ストーンズ展で模型を見て興奮したのも記憶に新しいところだが、スタジアム中央にBステージを設けメイン・ステージから巨大な「ブリッジ」でつなぐド迫力のステージ・セットは、実際のライブ映像で観ると模型とはまた別種のワクワクがこみ上げてくる。80年代の解散危機を乗り越えたストーンズにとって、90年代は現在進行形の、いわば普通のバンドとして過ごした最後の季節だった。2002年のベスト盤『フォーティ・リックス』以降、過去の記録のアーカイブに精を出すようになり、ライブのセットリストも固定化が進んでいった。ストーンズがストーンズという伝説を永遠にすることを明確に意識し出したのである。もちろん、アルバム『ア・ビガー・バン』、映画『シャイン・ア・ライト』、映像作品『スウィート・サマー・サン』といった数多の例を挙げるまでもなく、そのことがどれほどの興奮と狂熱と感動を生み続けているか、我々は知っている。ただ、本公演での『ブリッジズ・トゥ・バビロン』から5曲をセットリストに組み込み錚々たるアンセム達と並ぶ盛り上がりを見せている様には、やはりうらやましさを感じてしまう。一方、ファンからのリクエストがセットリストに反映される手法が初めてとられたのはこのツアーからで(本公演では『ブラック・アンド・ブルー』収録の名バラード“メモリー・モーテル”が選ばれている)、自分達の巨大で偉大な足跡への意識はすでに芽吹いていたことも分かる。終わらないロックンロール・バンドのひとつの終わりと始まりを刻む貴重な映像作品である。 (長瀬昇)
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