ワールドワイドに広がる「内輪」

エド・シーラン『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』
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ALBUM
エド・シーラン No.6 コラボレーションズ・プロジェクト

『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』と題された本作は、2011年リリースの『No.5〜』の続編に該当するコラボ・コンピだ。『No.5〜』はデビュー・アルバム『+/プラス』の前、エド・シーランのブレイク前夜に自主レーベルからリリースされたEPで、彼の下積み時代の集大成と呼ぶべき一作だった。メジャー・デビュー前のエドがグライムから大きな影響を受けていたのは有名な話だが、『No.5〜』は自分をフックアップし、育ててくれたロンドンのグライム・シーンに対する感謝とオマージュを込めて作った作品で、ワイリーやデヴリンら当時の彼の兄貴分がフィーチャリングされていた。『No.5〜』は、アマチュアのバスカー少年だったエドのその後の人生を劇的に変えた啓示がグライムであり、ヒップホップであったことを物語っている。

そこから8年後にリリースされた本作は、今や世界を制したエドが改めて自身のルーツを再確認したアルバムだ。ただし、英国ローカルなラインナップだった『No.5〜』に対し、今回のフィーチャリング・アーティストは思いっきりワールドワイド。エド自身は全く気負わずに前回と同じノリで作ったのだろうが、数々の記録を打ち立てたメガ・ヒット作『÷(ディバイド)』のツアー中に曲作りを始めたという本作には、エミネムチャンス・ザ・ラッパージャスティン・ビーバー、ストームジー、カミラ・カベロカーディ・B、トラヴィス・スコット、スクリレックスブルーノ・マーズ他多数、ヒップホップのみならずR&B、ラテン、エレクトロにカントリーにと各界の錚々たるメンツが集結していて、ほとんどテン年代ポップ・ミュージック界の『アベンジャーズ』みたいなことになっている。サプライズの先行シングルとして公開されたジャスティン・ビーバーとの“アイ・ドント・ケア”は、脱力するようなチープな悪ノリMVも含めて非常にユルいトロピカル・ハウスだったが、それでも配信初日で1000万回再生超えとSpotifyの新記録を樹立。もはや何をやっても勝ってしまうのだ。もちろん本作も全米&全英ダブル1位を獲得。

デビュー以来、数多のビッグ・ネームの作品にフィーチャリングされてきたエドだが、意外にも彼自身の3枚のアルバムでは一度もフィーチャリングしたことがない。それだけに「いつか自分の曲を一緒にやって欲しい人」リストはだいぶ長くなっていたようで、もちろんリストの最上位に名前があったであろうエミネムを迎えた“リメンバー・ザ・ネーム”は、エミネム & 50セントとの垂涎コラボで、エドはストロング・スタイルの2人に付き従う黒子に徹していて、ほぼ彼らの曲に聞こえる。エドの音楽の一周回ってパブリック・ドメインのような公共性が、主役の座をあっさり明け渡しているのだ。一方でヤング・サグとJ・ハスというアトランタとロンドンの才能が交錯し、アフロ・ポップのフィールをトラップに柔らかく纏わせていく“フィールズ”や、エドとカリードの両者にとって最強シングルとして成立している“ビューティフル・ピープル”などでは、エドをエドたらしめる基本条件が究極にミニマルだからこそ、いくらでも中身を入れ替え可能だし、何色にでも自在に染まるそのしなやかな才能に感嘆せざるを得ない。

本作は、そんな彼の才能を花開かせた土壌がヒップホップであったことを今一度確認したオマージュ・アルバムだ。ただし、彼がここでオマージュを捧げる先は、ヒップホップというサウンド・スタイルだけではなく、横でゆるく連帯し、競い合うヒップホップのフィーチャリング文化それ自体でもある。だからこそ、本作は『No.5〜』のようにストイックにヒップホップを追求したコンピにはならなかった。むしろ、ヒップホップがポップ・ミュージックの広範囲に深く浸透し「すべてがヒップホップ化していった」時代の縮図のような作品なのだ。8年前、アコギを片手にグライム・シーンの隅っこで佇んでいた異端児が本アルバムを作ったことこそが、その時代の変遷を何よりもビビッドに伝えているだろう。

いやもう本当に何でもありで、ラスト・チューンの“ブロウ”なんて、ブルーノ・マーズとクリス・ステイプルトンを巻き込みながら、ブルージーなソウル、サザン・ロックの領域を、あたかもその道のベテランのようなタッチでやりきってしまってるのも面白い。スタジオに次々に大物アーティストを招いて作った本作は、究極に贅沢な余興アルバムと言ってしまってもいいかもしれない。そして、そんな多くのセレブリティが賑やかに出入りする傍で、如何なる物からも人からも作用を受けないソングライティングの純粋さが、今なおエドの真ん中に息づいていることを伝える“ベスト・パート・オブ・ミー”が素晴らしい。 (粉川しの)



詳細はWarner Music Japanの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。
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エド・シーラン No.6 コラボレーションズ・プロジェクト - 『rockin'on』2018年9月号『rockin'on』2018年9月号
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