あわてん坊のサンタクロースさんからフライング気味に届いた、ちょっと早いクリスマス・プレゼント!?――この“アフターグロウ”は、昨年(2020年)12月21日にサプライズで届けられた、エド・シーランの久々のニュー・シングルである。
どれほど久々だったのか? シーランは2019年にもシングルを何枚もリリースしていたけど、それらはいずれも企画アルバム『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』の収録曲で、つまり、他アーティストとのコラボだった。純粋なソロでのシングルとなると、18年4月リリースの“ハピヤー”以来だから、実に2年8ヶ月ぶりということになる。
実際に聴いてみると、この“アフターグロウ”は、冬の星空がとてもよく似合う、しっとりメロウなアコースティック・バラードだ。アレンジはシンプルで、無駄な飾りはいっさい排されている。それゆえ、ふだんのシーランの曲と比べても、全体のメロディの優しさがより際立って聴こえる。特に『No.6 コラボレーションズ~』はほとんどの曲がヒップホップ/R&Bアーティストたちとのコラボによるものだったから、今回の「原点回帰」とも言えるサウンドは、むしろ大歓迎と感じる人も多いだろう。
歌もまた、冬ソングらしいロマンティシズムで満ち溢れている。曲を書いたのは2019年だったそうで、ファンの間では《時計を止めよう/なんて素敵なんだろう/君の髪を照らす、幾層もの光のダンスを見てごらん》や《僕らは愛に酔いしれ/奇跡を待っていた/冬の雪の中で、本当の自分を見つけようとしながら》といった歌詞は、シーラン夫妻が同年に訪れた南極でのオーロラ体験を元にしているのでは?との憶測も飛び交っている(シーラン自身が描いたジャケット・アートもまた、そんな残光のイメージと重なる、ジャクソン・ポロック風の抽象画だ)。
こういう形でのサプライズ・リリースがあると、「ひょっとして新作アルバムへの布石?」と勘繰りたくもなるけど、シーランによると、これはあくまで単発リリースとのこと。言い換えると「次のアルバムからの第1弾シングルではない」ということだけど、逆の見方をすれば、そこが今回のシングルの「一期一会」的な魅力だと思う。2021年のあなたの冬の夜空が、カラフルな光のダンスで満ちていますように……そう、エド・シーランの歌はいつだって、僕らを即席ポエマーにさせるのだ。
P.S.今回の歌詞で一番びっくりしたこと――エド・シーランがそこまでアイアン&ワインの大ファンだったって、知ってた!?(内瀬戸久司)
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