ギター同士の艶めかしい絡み合い、リズム隊のスリリングな駆け引き、歌声の周囲で曼荼羅のように妖しく躍動する音像……これらを次々示しながら、ドラマチックな空間、空気感を作り上げるのが、
ステレオガールだ。初の全国流通盤である本作は、魅力を素直に伝えてくれる。西行の和歌の一節を引用しつつ、春の穏やかさの中にある血生臭さを浮き彫りにする“春眠”。ザラついた質感の演奏がグルーヴィーな“I Don’t Play Baseball”。賑やかに動き続けているのに、たくさんの孤独を内包している東京のムードを捉えた“おやすみグッドナイト”……などなど、秀逸な曲が並んでいる。
ルー・リードがモチーフだと思われる“ルー”、
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドへのオマージュを窺わせるジャケットのアートワーク、様々な曲が漂わせるUKロック的な翳、マッドチェスター的な狂躁感など、海外のロックへの敬愛が自然な形で反映されているのも楽しい。昨年は国内の音楽フェスの他、『SXSW2019』にも出演したこのバンドの表現力は、とても豊かで多彩だ。今後、活躍の場を着々と広げていくと思う。(田中大)
『ROCKIN'ON JAPAN』2020年8月号より