どこまでも眩しい「魂の原風景」

ビリー・ジョー・アームストロング『ノー・ファン・マンデーズ』
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ALBUM
ビリー・ジョー・アームストロング ノー・ファン・マンデーズ

今年3月に予定されていた来日公演も含む最新アルバム『ファザー・オブ・オール…』のワールド・ツアーが、世界的なコロナ禍の影響で延期を余儀なくされた中、誰よりもその状況に歯痒さと憤りを抱いていたはずのビリー・ジョー・アームストロングは、その行き場なきルサンチマン逆噴射を「ビリー自身のサウンドトラック」と呼ぶべき名曲群のカバー・トラックへ結晶させていた。「No Fun Mondays」と題して、外出自粛期間が明けるまで毎週月曜日にカバー・トラックを公開し続けるというアクションは、グリーン・デイのアクトを待ち侘びる世界中のファンに向けてのメッセージである以上に、何よりビリー自身にとっての渾身のセルフメディケーションでもあったのだろう。そして同時に、己のルーツと対峙し彼のパンクとポップの軸を再検証するという行為は、その音楽世界にさらなるタフネスと訴求力を実装させるために不可欠なクリエイションでもあったはずだ。

「No Fun Mondays」シリーズでビリーが真っ先に発表したジョニー・サンダース“ユー・キャント・プット・ユア・アームズ・ラウンド・ア・メモリー”カバーの、ラフで剥き身なボーカリゼーションの中にも濃密に漂う不屈のロックの肉体性。「僕が欲しいのは真実だけ」というジョン・レノンのアティテュードと自身のパンク・マインドを重ね合わせて極限爆走させた“ギミ・サム・トゥルース”。80年代ガールズ・バンド=バングルスの“マニック・マンデー”(プリンスによる提供曲)がソリッドなバンド・サウンドとともにダイレクトに伝えてくる、少年時代のビリーの無垢な音楽愛――。

カリフォルニアのパンク・レジェンド=ジ・アヴェンジャーズの“コーパス・クリスティ”、ザ・クラッシュ“ポリス・オン・マイ・バック”といったシーンの先達へのオマージュ満載の楽曲群はもちろんのこと、新型コロナウイルス合併症のため今年4月に世を去ったアダム・シュレシンジャー(ファウンテインズ・オブ・ウェイン)による映画『すべてをあなたに』の主題歌“ザット・シング・ユー・ドゥー!”に至るまで、そのすべてが紛れもない「ビリーの魂の歌」としてリアルに胸を震わせてくる。時代を受け継ぎ「その先」を切り開く世界規模のパンク・アイコンの原風景が、今作の14曲の先には確かに広がっている。

「俺たちはこうやって隔離されているんだけど、少なくとも俺たちは一緒だからな」――ビリーが寄せたコメントはそのまま、世界の矛盾や困難と向き合い続けてきた勇者の新たな闘争宣言に他ならない。(高橋智樹)



詳細はWarner Music Japanの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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ビリー・ジョー・アームストロング ノー・ファン・マンデーズ - 『rockin'on』2021年1月号『rockin'on』2021年1月号
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