なんて美しい曲だろう。もう何度も繰り返し聴いているが、聴くたびに心地好く、その心地好さゆえに、言葉で説明しようとすればするほど大切なことが指の隙間から零れ落ちてしまいそうで、でも、この曲が与えてくれた確かな温かさが、じんわりと体には残り続けていて……またもう一度、私はこの曲を再生する。
ダンスミュージック的手法も消化しながら獲得してきたフィジカルな快楽性と、常に手放さなかった内省を表現するものとしての音楽の在りよう――Eveが育んできたエッセンスが静謐な場所で融合している。なだらかな抑揚を描きながら精緻に重なり合う、数多の声と音。揺らぎ。淡々と刻まれるビートは未来への歩調。韻とリズムと感情に導かれるように紡がれる言葉は、音の身体性と意味の切実さを螺旋のように描く。刻まれるのは、消せぬ記憶を抱え、それでもなお変化を望む人間の心だろうか。肉体性と精神性の見事なバランス感覚、人の悲しみも癒しも見据える明晰な眼差しが、もはやネットカルチャーの枠組みだけでは語りきれない表現者となった今のEveの大きさと深さを実感させる。(天野史彬)
宝石のような一曲
Eve『藍才』
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