ゲスの極み乙女。結成10周年。それを記念したベストアルバムが本作である。そこまでは誰でも思いつく。だが誰も思いつかないのがその先で、このアルバム、収録曲は1曲のみなのだ。収録されている“Best track”というタイトルをつけられたそれは、全25曲を解体・再構築／マッシュアップした35分あまりの楽曲。何がすごいって、違う曲のメロディやフレーズやベースラインやリズムが小節単位で組み合わされているのに、全体として高い完成度を誇っている点。つぎはぎだらけのはずのフランケンシュタインがツルッとした肌とキレイなフォルムで当たり前に人間社会に溶け込んでいるようなもので、怪物然とした怪物が目の前に現れるよりよっぽど怖い。いや、すごい。普通に曲として聴いていたらふと誰もが知っているあの曲や懐かしいあの曲が入り込んできて、時空が歪んだ気分になる。確かにサブスク全盛の時代、ただ楽曲を集めただけのベスト盤なんてもはや意味がないわけで、過去の楽曲を素材に新たなクリエイションをするという川谷絵音の発想は極めて自然で健全なものなのかもしれない。（小川智宏）

『ROCKIN'ON JAPAN』6月号より