泣きっ面も華

ゲスの極み乙女『スローに踊るだけ』
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ゲスの極み乙女 スローに踊るだけ
現状打破を試みてもがいてみるもうまくいかず、「もうずっとこのままなのかもしれない」という漠然とした不安だけが膨らんでいく。理想に届かない。どうすればいいのかわからない。それでも生きていかないと――そんな人生の悲哀を、極限まで小粋に描く楽曲である。

結成10周年記念ライブのアンコールで初披露された同曲。気だるさを纏ったギターと、セクションごとに異なる趣で魅せる鍵盤が感傷的な音色を放ち、緊迫感を帯びたベースとドラムがスタイリッシュに響く。各プレイヤーのタッチが活きた音とグルーヴは、高いアート性と切実な本音で綴られた歌詞との親和性も高い。タイトルに反して突如尋常ではない早口でまくしたてるといったギミックも、胸のうちに巻き起こる混乱の体現だ。人には見せたくない感情や姿を、研ぎ澄まされた感性や洗練された技術でここまで美しく描かれると、うだつのあがらない自分の人生や泣き顔も掛け替えのないものであり、自分を作る大事な要素のように思えてくる。聴き終えた時に、涙を流したあとのような、切なくもポジティブな清涼感が残った。(沖さやこ)

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