TVアニメ『僕の心のヤバイやつ』のオープニングテーマで、この青春初恋コメディに“斜陽”という楽曲を当ててきたことに驚きながらも、そこに、焦がれても手にすることのできない恋や生を描くというテーマの通底を見て再び感嘆する。「言葉にするには難しい関係にはシンプルな比喩が合うように思います」とn-buna(G・Composer)がコメントを寄せているように、“斜陽”の歌詞は、ストレートな情景描写に繊細で複雑な感情が宿る。この楽曲が太宰治の『斜陽』オマージュであることは言うまでもないが、小説の内容を楽曲に落とし込むというより、成就するはずのない思いや沈みゆく生活を燃え盛りながら落ちていく太陽に喩えた、太宰の比喩の美しさを引いているように感じる。そして楽曲はまさしくヨルシカのど真ん中と言える名曲。suis(Vo)の表現が素晴らしい。特に《落ちていくのに理由もないのならもう》と歌う箇所など、陽が落ちていく様と恋に落ちていく瞬間の感情が同時に映し出されるように響いて心を掴まれる。ユニゾンで重なるn-bunaの静かなコーラスも、楽曲のテーマを繊細に表現する。(杉浦美恵)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年7月号より抜粋)
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