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前作『our hope』から約1年半、羊文学の存在感が日々色濃くなっていくのと同時に、彼らの見ている景色にも変化があったことは今作を聴けば明らかだ。と言っても今までいた場所から別の地点に移動したわけではない。まるで螺旋階段を上るように、真ん中を貫く「芯」に沿って一歩ずつ上昇していき、さらに広い世界に辿り着いた、そんな印象だ。《静かに燃えている/あなたの命を/離さないで 離さないで/いてね》――タイトル通り録音そのままのような生々しい息遣いで、静かな願いが放たれる1曲目“Hug.m4a”から、《失って傷ついても続くなら壊れたって歌うから/もう二度と離さないわ》と優しい覚悟で締め括られる“FOOL”まで、この12曲は「他者への慈愛」で包まれているような感覚がある。螺旋階段を上りながら、羊文学は自らの毒気も不完全さもありのまま受け入れ、自らを赦したのではないか。だからその先で鳴るこのアルバムはしなやかでこんなにも力強く、深い深い愛情を携えて響くのだ。(藤澤香菜)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年1月号より抜粋)
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